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シーケント要害は鉱山都市ベローガモより更に北に向かい、山を登らなければならない場所にある。
とは言いながらもそれ程高くまで登る必要はない。
重要なのは敵国側、つまりはフィナレア公国の北側にあるカークランド王国から見た位置にある。両国間を唯一結んでいる街道、山の中腹にできた切通しを塞ぐように作られているのだ。
要害の両側を険しい山々で塞がれているのだから、文字通り難攻不落の要害である。
そんな場所に位置するのだから、歴史上一度も抜かれた事のない要害であると歌われるのもわかるだろう。
ただ一言、フィナレア公国へ向かうにはシーケント要害だけが道ではないとだけ申しておこう。
「ほう。これがシーケント要害か……。なるほどなるほど」
「コーネリアス?ちょっと性格変わったんじゃない」
眼前に見える要害を構成する防壁。場所もさることながら見上げるほどに高い防壁は難攻不落と表現するにふさわしいとさえ思う。
特に今はフィナレア公国側から、南側からの眺め。傷一つ無い防壁にうっとりするしかない。まぁ、使われていない新品同様の飾り物に価値があるのかと言われれば答えに詰まってしまうが。
「この要害にそこまで価値はあるのかと疑問に思っていたが想像以上に価値があるのだな」
「そうなの?」
「たぶん、北側に回ればわかると思うぞ」
僕たちは傷一つない新品同様の防壁を見せつける南側を見ているが、これが北側に回れば違って見えるだろう。
恐らくだが、北側に戦闘の痕跡を多く残している筈だ。それを見つければどれだけこの要害が敵からの侵入を防いでいたかわかるだろう。
僕はそんな事を身振り手振りを交えてフラウに説明した。
「でも、それ、全前部受け売りでしょ?」
「そうとも言う」
僕がそこまで詳しいはず無いじゃないか。
今、フラウに説明したのはここまでくる道中で仕入れた情報だ。宿場町の酒場や宿屋の客などから仕入れた。
僕が何処かへふらっと出掛けていたのを知っているからね、フラウは。
だけど、興味がない事だったらここまで聞かなかっただろうし、受け売りだとしてもかなり身に付いたと僕は自負している。無駄では無かっただろう。
「ここで油売ってても仕方ないから要害に入ろうか」
「いい時間だしね」
日は東西に連なる山々に隠れ始めている。山の陰に入るから日の入りが早く感じられる。これは仕方のない事だけどね。
そのおかげか、このシーケント要害の閉門時間は早い。
通り抜けるためには日が出ている時間に手続きをする必要がある。
早く通り抜けたい旅人や商売人が急ぎ足で要害へ向かうのはわかるだろう。
僕たちはこの要害が目的地だからそこまで急がなくてもいいので多少ゆっくりだった。
そして、日が山陰に隠れた辺りで僕たちはシーケント要害へと入った。
シーケント要害は軍事施設なだけあって、宿場町の様なサービスにあふれた宿は皆無だった。まぁ、わかり切った事だったけどね。
「だけど、この干しても無い布団は何なのよ?サービスしてくれなくても良いけど、この位は気を使って欲しいわね」
この要害で泊まると告げた途端、ちょっと叩けば埃が舞い踊る布団が置かれた部屋へと通される。変な虫がいそうで怖いんだけど、大丈夫か?
野営に慣れた僕たちでさえ辟易してしまう。僕よりフラウの方がご立腹ではあるが。
「完全に日が落ちるまで時間があるから掃除でもして置こう。少しでも快適によるが過ごせるようにさ」
プンプンと腹を立てているフラウをなだめつつ、窓を開けて布団を干す。ほんの少し風に当てるだけでも違うだろう。パンパンと布団を叩けば当然のように埃が舞い踊った。暫くすればその埃も目立たなくなり、ほんの少しだけど快適な夜になったであろうと思われるのだ。
そして、碌なサービスも受けられぬまま夕食を終えると、僕たちはほんの少し快適になった布団に潜り込み夢の中へと落ちて行くのであった。
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