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「実のところな、お前さんたちが言った鬼人オーガーなる魔物はワシは全く知らなんだ。もっと別の場所を注目して欲しかったのじゃよ」


 僕は鬼人オーガーの話をこのあたりで切り上げて別の話題へと変えようと思った。

 しかし、そんな僕の意思を無視してまでもハンネマンさんは物語の話題を続けようとしていた。

 一つの理由がハンネマンさんが意識してもらいたかった場所と異なる場所を僕が指摘したからに他ならない。


 魔物である鬼人オーガーと物語に登場する赤ら顔の巨人が同じようである、そのように口を吐いて出てきたことに関して、ハンネマンさんは殆ど気になっていなかった。むしろ、鬼人オーガーの事を全く知らなかったのが不思議なくらいにピンポイントでこの原作を探し出したことに驚くしかない。


 だが、それよりももっと驚くことをハンネマンさんから聞かされるとは、この時点では全く想像できなかった。


「そうなのですか?」

「そう。ワシがこの本を翻訳して出版しようとしたのは他の理由じゃよ。魔物とは全く関係がないのじゃよ。そう、お前さんたちが気になってしょうがない、赤ら顔の巨人が住む場所にある」


 物語は探検家が旅の終わりに目的地に到着し、赤ら顔の巨人と出会う。

 そして、故郷に帰着するまでが物語だ。

 僕もそうだけど、そのストーリーは物凄く良いとさえ思う。

 一般的にはそのような感想が大多数を締めるだろう。しかし、極一部の人々からは全く異なる感想が出てくると言うのだ。ハンネマンさんは赤ら顔の巨人が住まう場所、いや、島が気になる、だろうと。


「「そうなの(ん)ですか?」」

「そうなのじゃよ」


 僕とフラウは半信半疑でハンネマンさんに疑惑の視線を向ける事となった。

 それでもハンネマンさんは自信満々に答えを返してくる。

 しかも、その答えがさも当然とばかりに、クリスとドミニク自慢気な表情を向けていた。いや、それ、クリスたちがそんな顔する必要無いと思うけど……。


 そんな事を思いつつもハンネマンさんの話に耳を向けると……。


「お前さんたちにはなじみ薄いが、我が国、フィナレア公国には伝承とでも言うのか、この探検家が記した行く手を阻む嵐が存在することがわかっておる。この港から南西にわずか二日ほど航海したところに、じゃ」

「えっ?」


 鬼人オーガーに似ている巨人が記されている他に、存在する自然現象まで記されている。これは驚きである。

 これが偶然に記されているとしたら確率は如何程になるのだろうか?天文学的な数字になる気がするんだけど……。

 ん、気のせいか?


「まぁ、偶然じゃと思うがな。何せ、嵐を抜けた先に大陸などありもしないのじゃからな」


 真実なら恐ろしいと考えたが、僕の口を否定的な言葉が飛び出す前にハンネマンさんから溜息交じりに否定的な言葉が吐いて出てきた。まさかの本人からの否定である。

 確かに、この地より二日、そして嵐を抜けたすぐそこに大陸があったらすでに知られているだろう。つい最近発見されたとしたら、それこそ大騒ぎになっているだろう。

 そんな大事件、隣国に全く情報が流れないってのはおかしいから、何も無かったと言うのが正解なのだろう。


 まぁ、お騒がせな物語だ、と言うのがハンネマンさんとここまで話した結論だ。

 当然、僕の内心では、と言う但し書きが付くけどね。


「嘘か誠かはわからんが、フィナレア公国では誰もが知っているこの伝承が記されているこの物語は公国内ではそれなりに売れるだろうと言うのがワシの目論見なのじゃ。それ以上でもそれ以下でもないから、お前さんたちは暇つぶしにでも読んで貰って、話のタネにでもしてくれると有難い」


 結論から言うと、内容はともかく僕たちにこの本を読んでもしかしたら見つかってない発見があるかもしれない、だから買って読んでみてねと宣伝して欲しいという事なのだ。

 したたかと言うか、何と言うか、食えない爺であった。

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