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遺跡調査からの帰路にも大なり小なり、トラブルが発生した。
僕たちに関係のない事ばかりだったので気は楽だったが、それでも目の前でトラブルが発生してしまえば視線を向けてしまう。
それは仕方のない事……何だけどねぇ。
「ま、それは考えない事にしよう」
「何か言った?」
「いや、何も……。独り言だ」
ぼそりと口を吐いてできた言葉がフラウに届いていたようだ。
小声だったから隣にいるフラウにだけ聞こえたのだろう。
「それにしても進まないなぁ……」
「王都は仕方がないだろう。おっと、そろそろ進むぞ」
あれからもう何日たったのだろうか?数えるのもばかばかしくなっている。
ただ、春が過ぎ、夏の日差しが間もなく訪れる季節になったのだけは確かだ。
それだけ、エンフィールド王国を、いや、その王都を離れていたと言えよう。
僕たちが拠点にしているのは王都じゃないから、離れたって言うのは語弊があるかもしれない。
ちなみに今は、夜明け時。
王都の西門から入城しようと門が開くのを待っている最中だ。
人の往来が激しい王都なんだから、城門を閉じなくてもいいのにと思うんだけどね。
調査した遺跡があった隣の国、カークランド王国の王都は普段、城門を閉めないと聞く。本当かは定かではないけど。
なぜ、夜明け前に城門前にいるかと言うと、乗合馬車ではなく、行商の馬車に便乗させて貰ったから。僕たちの後ろにはその行商の馬車がいるんだけど、王都に入るには関係者じゃないから降りて並ばなくてはならないのだ。
まぁ、ここまで来れば護衛も何も無いから良いんだけどね。行商も余計な手間が掛かるのは御免被りたいだろうし。
そんな事を思っていると、列が進みだした。
列って言っても延々と続く列じゃない。僕たちの前にいるのは五十人くらいかな?
後ろもそんなにいない。
だから、王都に入るのは非常にスムーズだった。
犯罪者だったら城門でお縄になるだろうけど、僕たちはそんなことなくすんなりと入ることができた。
「で、真っすぐ教授に会いに行くのか?」
王都に入った所でヴィリディスに問い掛ける。
早めに調査報告をした方が良いだろうと思っての提案だったのだが……。
「いや、何処かで朝飯を食ってからにしよう。どうせ、寝ているか、忙しくしているかどちらかだろう」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんだ。少し時間が経った方がすんなりと会えて、報告できるはずだ」
ヴィリディス曰く、研究者は昼間よりも夜や深夜の方が頭の回転が良くなるらしい。
何故かはわからないが、暗い方が良いのかもしれない、と。
その気持ちはわからないな。
だけど、夜遅くまで起きているのは、何となくいけない事をしているようで気分が高揚してくる気がする。
気がするだけだよ。
「今なら冒険者ギルドに行っても混む前だろうから朝飯もゆっくりと摂れるだろう。ほら、眠ってないでさっさと行くぞ」
日が昇ったばかりの時間はまだ活発に動く人はいない。
商人も職人も、そして役人もベッドから這い出したばかりだろう。
その人たちが動き出す前に朝食を済ませてしまおうとした。
だけど、眠いのはベッドから起きる人だけじゃない。
夜明け前から王都の門に並んでいた人も同じ。
街の外では魔物に襲われるかもしれないからと気を張っていたけど、高い城壁に囲まれた王都に入れば、安心感から気を緩める。
その緩みは当然……。
「フラウ、立ったまま寝ようとしない!」
気の緩みはフラウに襲い掛かっていた。
と言うか、立ったまま寝ようとしてるでしょ。
器用と言うか何と言うか……。
危ないから気を張っていなさい。
そんなフラウの手を引っ張って、僕たちは冒険者ギルドへと向かった。
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