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「と、いう訳で、あのご老人がススメてきた流行りの物語を買ってきた」


 夕方にも関わらず、まだ夢うつつ状態のヴィリディスの目の前にドカンと三冊の書籍を山積みにした。

 三冊が山積みなのかは疑問だが、丁寧に作られた表紙などを加味すると山積みであっている様な気がする。

 気がするだけ、それだけなんだ。


 それで目が覚めたのか、僕たちを冷めた視線で見てくる。

 蔑むような視線じゃないだけマシだろうね。


「で、買ってきたからどうしたってんだ?光属性魔法についての書籍はこれじゃなかっただろう?間違えて買って来たんじゃないだろうね?」


 ヴィリディスが言うのも分からないでもない。

 御老人から光を飛ばす魔法が存在していると聞いた。それは間違いない。

 今回購入した物語は御老人が旅の仕方を参考にしている物語だ。ヴィリディスが得たいと思った情報は書かれていない。


 だけど……。


「確かにそうなんだけど……。買う前に物語の最後をちらっと見たんだよ。ちょっと、ここを読んでみてよ」

「コーネリアスよ、物語を後ろから読むやつがいると思うか?まぁ、今回ばかりは大目に見てやるとして……。で、ここの付箋の位置でいいんだな?」

「そう。そこから数頁だけ」


 僕の頼みに胡散臭そうな表情をした。

 まぁ、胡散臭いのは、まぁ、わかる気がする。

 僕でも何で後ろから読ませるのか?と思うだろうからね。

 だけど、全部を読むとなると、一日では終わらない。しかも、僕はまだ読み進めていないんだから。


 え?

 なんで最期を知っているかって?

 簡単だよ。

 本屋さんで物語の最期を見たからだよ。

 そこで買うかどうかを決めた。

 そこにはこのように書かれていたんだ。


”アミュレットはまばゆい白い光を発し、聖なる印の特徴を見せた。”


「……ふう。これは本当なのか?」

「いや、物語だから詳細は違うはずだ。だけど、白い光を放つアミュレットが世界のどこかにある筈。つまりは魔法陣によって白く光り輝く魔道具が存在している証拠だと考える。明かりを付ける魔道具や僕の業物の剣みたいにうっすらと白く光るとは違う、ね」


 と、ヴィリディスに本当であるかのように話したが、実際に見たことも聞いたことも無いので真実味に掛けるのは事実だ。

 だけど、あの御老人の話を聞き逃さなければ、御老人が手がけた物語は真実が多大に含まれていると読み取れる。

 つまり、白い光を放つアミュレットはこの世の何処かに存在している、そう結論付ける。


「まぁ、アミュレットって名前を付けたのはご老人かも知れないけどね」

「あぁ、アミュレットに似た何かがあるって事か」

「そうだと思う」


 何処かにあるとは思うが、所有しているだろう人は何となくわかる。

 物語が本当の事を題材にしているとすれば、王様や王様に連なる人たち。

 まぁ、読み解く必要が無いほどに答えが乗っているからこれは楽だった。


「ヒントが書かれていると考えれば、買ったのもわかるが……」

「それも一つの理由なんだけどね」

「ん?光属性魔法についての資料として買ったんじゃないのか?」


 僕としてはヴィリディスが知りたいだろうと思って買ってきたのは本当だ。

 魔法陣で闇属性魔法も光属性魔法も使えると知れれば良いかなと。


 そして、もう一つが非常に重要だった。


「だって、これからクリガーマン教授に調査が終わったと伝えに行かないといけないでしょ?」

「当然。報酬だって貰わなければならないからな」

「なら、やはり、買っておいてよかったよ」

「だから何のためにだ?」


 ここまで伝えてわからないかなぁ。

 行きの馬車であんなに暇を持て余していたことに。


「馬車内での暇つぶしに決まってるじゃないか」


 自慢気に口にしたが、全く伝わっていない様だ。

 僕に向けて冷めた視線を浴びせて来たのだから……。

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