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※なかなか更新できなくて申し訳ありません。




 朝食を終え、ヴィリディスが一休みすると、幾分か隈が薄くなった。それを見た僕たちはテントなど野営の道具を仕舞い、パドゥムの街への帰路に就いた。

 ヴィリディスが休んでいる間に殆どの道具を仕舞っていたので最期はテントを畳むだけで良かった。

 楽か?と言われれば、どうなんだろう。

 テントって、畳むのは結構大変なんだよな。支柱もかさむし、テント本体だって、フライシートだって……。

 まぁ、丸めてバックパックに括り付けるだけだから簡単だって言われればその通りだけどさぁ……。


 そして、数日前に通った獣道をゆっくりと歩く。

 高い樹木が無いから日の光は十分に届く。逆に届き過ぎて熱いくらいだ。

 あれ?熱いで良かったっけ?


 木々の間を通っている獣道を抜ける徐々に開けた道になる。

 その頃になると獣道からしっかりとした地面が見えた道になり、そして、馬車が通れるほどの広い道に変わる。そうなれば、魔物が闊歩する領域から人が鉱物を掘る坑道のエリアだ。

 だが、木々がまだ茂り坑道との境目には注意すべき魔物が生息する。

 それが岩食い蜥蜴ロックリザードだ。


 基本的には大人しい魔物だ。

 だけど、食事を邪魔されるのが癇に障るらしく、通りかかっただけでも牙を向いてくるのだから始末に負えない。

 それに背中を覆う岩や鉱物なども厄介だ。

 迂闊に剣を突き立てれば刃こぼれを起こすことは間違い無い。

 腹は比較的柔らかい皮だから仰向けにしてしまえばよいと思うかもしれないが、結構な力を持っていて、迂闊に近づくことなど無理だろう。


 だから、岩食い蜥蜴ロックリザードを見つけたら戦わず逃げるのが賢いのだが……。


「何で岩食い蜥蜴ロックリザードがいるのかねぇ」


 僕たちはその岩食い蜥蜴ロックリザードに追いかけられていた。

 何で追いかけられているのかって?

 たまたま、通ったところに岩食い蜥蜴ロックリザードがいただけなんだよ。

 岩を食っていたって訳じゃないし、日向ぼっこをしていただけなのかもしれない。

 ゴブリンがよく見かけるとは聞いたから、それが現れるのは諦めが付くけど……。


「なんか納得いかない!」

「同じく!」


 結果を吹っ掛けていないにもかかわらず、追いかけてくる、何か理不尽だ!

 納得いかないのは僕もヴィリディスも、そしてフラウも同じだ。


「で、どうするよ?」

「走って逃げようよ。倒すの面倒だもん」

「それがいいだろう……」


 ひっくり返して腹を切り裂ければ倒せるだろうが、そうするまでに怪我を負いそうだ。

 それが出来なければ、決定打を与えられるのは僕の持つ業物の剣のみ。

 後は尖った物を目玉に突き立てる位しか手はない。だが、岩食い蜥蜴ロックリザードの目玉は小さく、フラウの矢だったとしても万に一つも突き刺さる事は無い。

 ヴィリディスの魔法も効果が薄いだろうし……。


「道が広くなったから逃げるのは容易いだろう」


 足場が悪い獣道で遭遇したら転ぶ事もあるだろうが、馬車が通れるくらいのしっかりした道なら岩食い蜥蜴ロックリザードから逃げるのは容易い。

 人もいないし、何より、岩食い蜥蜴ロックリザードは足が遅い。


「んじゃ、さっさと逃げるとしよう。その前にっと……」


 ただ逃げるだけじゃ芸が無いと、僕はフラウのバックパックに手を突っ込むと干し肉を一掴み取り出した。


「あ~!わたしの干し肉!それ、高かったんだけど!」

「帰ったら同じグレードのを買うから我慢してくれ」


 僕が掴んだ干し肉はフラウがとっておきにしていた食料らしい。

 たぶん、沢山売っている干し肉よりも数倍高い物だと思う。

 掴んでしまったんだから仕方ない。

 あとで弁償するから我慢してくれ。


「ほれっ!これでも食って山に帰りな」


 手にした干し肉をポイッと岩食い蜥蜴ロックリザードの鼻先へと放り投げた。

 すると、岩食い蜥蜴ロックリザードは僕たちではなく、その干し肉へ視線を向け、貪るように干し肉を頬張った。


「あれ。もしかして解決?」

「だな」


 岩食い蜥蜴ロックリザードはフラウのバックパックから漂っていた高級干し肉の臭いにつられて僕らを追いかけていたらしい。僕の手には食欲をそそる匂いは全くしなかったが、岩食い蜥蜴ロックリザードにはとてつもないご馳走だと思ったのだろう。

 その後、干し肉を口にして満足したらのか追いかけるのを止めてそのまま山へ引き返して行った。


 戦わずして勝つ!とはこういう事をいうのだろう(違うって!)

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