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 僕たちは無事にゴブリンの群れを駆逐できた。

 最期の一匹はヴィリディスが心臓に剣を立てて命を奪った。

 ちなみに、腹に矢を受けたゴブリンはフラウが責任をもって首を刎ねていたので逃げた個体は皆無だ。


「少し苦戦したけど、誰も怪我をしなくてよかったよ」


 一番怪我に近かったのは僕であるのは間違いない。だけど、寝起きだと体のキレがイマイチかもしれなかったから、二人に怪我が無くホッとしているのは事実だ。


「少々眠いが、ゴブリンを始末してしまわないと、魔物が寄ってくる可能性もあるからなぁ。どうする?」


 血を流した獣や魔物をそのままにしておくと血の匂いに引かれてわらわらと近づいてくることがある。死んだ獲物を食料と見るだけなら良いけど、生きている僕たちに狙いを付けられるとまた戦闘になるから、それは御免被りたい。

 処理は穴を掘って埋めるか、燃やしてしまうか、だと思うが……。


「穴を掘るのも面倒だから、遠くに捨てておこう。オレとコーネリアスが二匹。フラウが一匹でいいか?」


 もうすぐ夜明けが近い。

 いまさらショベルを持ってえっちらおっちら、穴を掘って埋めるなんて面倒。

 少し遠くに捨てておけばいいだろうって。

 本当は埋めて、燃やすのが一番なんだろうけど……。

 まぁ、夜も明けるし、何とかなる……かもしれない?

 ゴブリンの死体をヒントに、こっちに来ない事を祈ろう。


 ゴブリンの死体をどうするか、話し合いを終えた僕たちは、死体を引きずりながら獣道を途中まで引き返し、道を逸れて草むらへゴブリンを放った。

 何度もいうけど、あまり良い手段ではない事だけは確かだ。


 僕だって穴を掘って埋められれば一番いいのはわかってる。

 わかってるけどねぇ……。


「ね、眠い……」


 適当に処分したのは寝不足気味だってのが一番。

 暗いうちは休んでおく、そう考えたから、ゴブリンの処理をなぁなぁにしちゃった。

 とりあえず、明け方まで何も無ければ、そう思う事にして不寝番を続けるのだった。




 ゴブリンが現れたその後は魔物は現れなかった。

 空が白んできて日が昇り始めたのを見て僕は思わず涙を流してしまった。

 久しぶりの野営が無事に終わったって事もそうだけど、山の上から眺める日の出に思わず感動してしまったのは内緒だ。

 フラウは何も言わないだろうけど、ヴィリディスは確実に揶揄ってくるな、知ったら。


 日が昇り始めたばかりだから二人が起きてくるのはもう少し後だろう。

 その間に朝食の支度をしておこう。

 支度とは言ってもそんなに豪勢な食事が出来る筈も無く、いつも通りの食事になる。


 焼き締めたパンをスライスしておいて乾燥野菜と干し肉のスープの準備をしておく。

 薪代わりの小枝はまだありそうだから二人が起きてきたら作り始めよう。

 ちなみに水は、水属性魔法を使えるフラウがゴブリンを処理した時に出しておいてもらった。


「そろそろかな?」


 煤けた地面に小枝を積み焚火の準備をする。

 火魔法を使えるヴィリディスが起きていればあっという間に火を付けてくれるが、僕はあいにくと土魔法しか使えない。しかも成長限界が低い。

 それはどうでも良い、今はね。


「たしか、ここにあったと思ったが……。っと、あったあった」


 バックパックのポケットから火付けセットを取り出す。

 少ないながらも着火用油と火が付きやすい繊維も出てきた。

 油をしみこませて繊維を焚火の下にセットして……。

 火口箱で火花を飛ばしてっ、と。


 油がしみ込んだ繊維に火が付いた。

 これを少しずつ成長させて、小枝に火が付けば……。


「久しぶりだが、上手く行った。あとは鍋を掛けて……。その前に乾燥野菜を入れておかないとな。根野菜は水から温めるが吉ってね」


 煮立ってきたら干し肉と味付け、そして、少しとろみを付ければ出来上がるだろう。

 煮立って来れば良い匂いがテントに入り込むはずだ。

 それまで、一人で頑張るのだ。

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