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 カークランド王国に入った僕たちは一路、乗合馬車で西を目指している。


 クリガーマン教授に指示された遺跡に一番近い街まで、国境の町から寄り道をしないで十日と少し。

 国境の町から西へ向かって間に二つ大きな街を経てアダンナと言う街に向かう。ここまでが一週間ほど。

 それから南へ三日ほど進み、パドゥムと言う街へ到着する。ここが遺跡に一番近い街だ。

 全ての道程を乗合馬車で、しかも乗り継ぎが良かったらと言う条件がついての日程だ。

 なので、パドゥムまで二週間から二十日ほど掛かると思われる。


「遺跡まで結構かかるな~」


 国境の町で簡単な路線図が書いてある地図を購入して目的地を確かめる。

 乗合馬車で進めるおおよその日数が記載されており、その日数を合計してみて思わず溜息交じりの愚痴がこぼれてしまう。


「仕方ないだろう。教授がそこへ行けと言うのだから」

「そうだけど……。それにしても、ヴィリディスは楽しそうだな?」

「そ、そうか?」


 馬車に乗って早速寝入ってしまったフラウとは対照的に、ヴィリディスは窓から見える風景を楽しそうに眺めている。暇を潰せればそれでいいんだけどね。

 乗合馬車だから、彼の懐に仕舞っているあの写本を出せないから暇を持て余していると思ったが、案外暇を潰す手段を持っていると感心してしまう。


 僕も乗合馬車では暇なので時間をつぶす手段は幾つか持っている。

 本当は普段使いの剣を磨いたりしたいと思うが、なんせ乗合馬車なので鞘から抜くことも出来ないから、早々に諦めて昔に買った書籍を開いたりしている。


 僕とヴィリディスは別にいい。問題はフラウだ。

 寝入ってしまっているのは問題無いけど、彼女の寝姿だ。

 僕は嫌いじゃないけど、他の人が見たら百年の恋も覚めてしまうんじゃないかと思う。

 上を向いて口を開けて、”クカークカー”と鼾を掻き、よだれを”ツツツ”と顎に流しているんだからねぇ。まぁ、よだれくらい、拭いてあげるよ。フキフキ……。


「こんにちは。御三方は何処まで行きなさるのかね?」


 ヴィリディスと話を終え、フラウのよだれを拭き取った僕たちに隣に座ったご老人が声を掛けてきた。突然声を掛けられ、思わずビクッとしてしまったのは内緒だ。

 他にも乗っている人がいるのになぜ僕たちに声を掛けて来たのかは不明だ。


「こんにちは、まずまずの天気ですね。僕たちはパドゥムって街まで行くんですよ」


 行き先くらい告げても問題ないだろうと、にこやかに答えた。

 ただ、行き先を答えるのも芸が無いと薄い雲が立ち込める天候を気にしている素振りをしながらだ。天候の話は蛇足だから、それに反応しなくても大丈夫。


「パドゥムか……。結構遠いですな~。ワシは王都まで行くからアダンナまでご一緒ですかな?」


 国境の町から間二つ街があるから、道草をしなければこのご老人と同じ馬車に乗るかもしれない。


「今のところ、観光する予定もないのでそうなれば嬉しいですね」


 社交辞令を混ぜてご老人に答える。

 人当たりが良さそうなご老人なので一緒になっても問題ないだろう。

 と言うか、人当たりもそうだけど、貴族然とした雰囲気を持っているから侮れないかもしれない。


「御三方のような若者と一緒なら安心できます。その時はよろしく」

「こちらこそ」


 一応、社交辞令。そう思いながら挨拶を終えようとしたんだけど……。


 よくよく考えたらこのご老人、一人なのだろうか?

 受け答えもしっかりしているし、足腰も丈夫そうに見える。

 それなりに上等なお召し物を着ているから、一人ってのも考えにくいんだけど?


「失礼ですが、ご老人はお一人で?」


 思わず聞いてしまった。

 聞くか聞くまいか迷ったんだけど、先程の言葉が気になってしまったから、仕方なく。

 仕方なくだよ。


「実は、供の者とはぐれてしまってね。何かあったら途中の街で落ち合う事になっているのじゃよ。まぁ、国境で足止めをされるとは思わなかったから、心配しているかも知れないがね」


 いや、そんなに明るく言われてもねぇ。

 ちょっとだけご老人の供の人が気になったのは言うまでもないだろう。





今週から執筆の環境が変わってしまい、安定して投稿できない可能性があります。

ですが、頑張ってなんとか一日一話、投稿したいと思います。

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