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 僕たちがカークランド王国との国境で足止めされて約一か月。

 ようやく封鎖が解かれて隣国への行くことが出来るようになった。

 長い長い一か月だった?


 いや、宿で暇を持て余していた、なんてことは無いからね。

 この国境にも冒険者ギルドがあったから”暇!”なんて事は無かった。

 まぁ、国境沿いだけにうっかりと国を跨いでしまう、って事だけ注意すれば報酬も良く懐が大分潤ったのは内緒だ。こんな場所を拠点にする冒険者は少ないって事だ。


 それはそうとして、一か月の間で微妙なピンチが訪れた。

 あの時は肝が冷えたね。

 宿に教会騎士団がわらわらと現れたんだから。


 国境沿いのこの街、特に名前は無いのでだいたいは国境の町○○側って呼ばれてる。エンフィールド王国側だから○○にはそれが入るけど。

 この国境の町はそれほど大きくない。争う為の場所でなく、人の行き来を見ているだけだからね。係争地だと砦を作って大規模な兵団を常駐させるんだけど。

 ここは多少作物が育つ程度でそこまで価値を見いだせないんだろう。


 そんな小さな町に教会を置く事は無い。

 争いに巻き込まれて教会自体が焼け落ちてしまうのを嫌っているのかもしれない。わからないけど。

 そんな教会が無い場所で大勢の教会騎士団が現れたんだから誰だって大騒ぎだ。

 まぁ、国から兵士を派遣されるよりは騒ぎは小さいけどね……。

 って、大規模な師団とか派遣されたら戦場になるから洒落にならんよ……な?


 その教会騎士団だけど、何を調べているのか聞き込みをしてみたら直ぐにわかった。

 どうも、教会を裏切った背教者が出たらしい。

 と言ってもこちら側ではなく国境を跨いだあちら側、カークランド王国側だそうだ。

 それがあったからエンフィールド王国側にも教会騎士団を派遣して背教者が出ていないかを調べていただけのようだ。


 一般の市民は教会で祈りを捧げてはいるが、祈るだけでその身を教会に捧げている訳ではない。僕たちも同じ。

 教会の組織自体は信じていないけど、神様に祈るくらいはしている。少しでも人生が良くなればいいかなって。


 で、背教者ってのは、教会に身も心も全てを神のため捧げたんだけど、その後教会の教えに背いてしまった人の事と教会では定義している。

 普通に生活して時折祈りを捧げている人が教えを反故にしたとしても、教会は背教者とは認めない。教会に弓引く人は別だけどね。

 あれ?僕たちって背教者じゃないけど、教会に反抗するって人になるのかな?

 うん、考えるのは止めよう。今はね。


 話を戻して、教会騎士団は国境の町を一通り調べて行った後、誰も連れて行くことなく帰って行った。

 結果的に”何しに来たんだろう?”ってなるけど、調査も立派な仕事。

 何もなかった事でホッとしたんだろう。

 僕たちもホッとしたし。


 その教会騎士団が去って行ったのが一週間前。

 そして今日、国境の封鎖が解かれたのである。


「それにして、ここで足止めを食ったのは痛いな?」


 クリガーマン教授には国境で足止めされていると手紙を送っているから時間的には問題ないだろう。教授もそれ程急いでいるとは言ってなかったし。


「調査をしっかりと行う事が今回の目的だからな。時間はたっぷりあるぞ」


 教授とヴィリディスがしっかりと事前にすり合わせをしていたから問題は出ていない。

 これが調査できずに引き返しました!ってなったら大問題だそうだ。


「それじゃ行くか」


 僕たちは封鎖の解かれた国境へと向かった。

 町の北と南、共にしばらく歩くと深い森が茂っている。表には出てこないが凶暴な魔物がいるとかいないとか?その森と森を繋ぐように柵が作られ、一か所開けられているのがこの国境の門って訳さ。


 僕たちは身分証を提示し、王立高等教育学院の印が押してある依頼書を見せて手続きを終えると、門を越えカークランド王国へと足を踏み入れた。

 すんなりと入れたのは王立高等教育学院の印が押してある依頼書があったからに違いない。そう思う事にした。

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