-15- カークランド王

 コーネリアスたちがカークランド王国との国境へ到着する一週間ほど前に時間はさかのぼる。





「我が君~!我が君~!」


 我の居城、カークランド王国王都にある王城に宰相の声が響く。

 何処にいたか、最初は小さな声であったのだが、暫くするとハッキリとこの耳に聞こえるまでに大きくなり、更に城内がざわざわと騒がしくなるほどに五月蝿く聞こえだした。


「我が君~!」

「何だ宰相。いつも言っておろう。大事な時こそ沈着冷静が求められると」


 我は先程までいた謁見室から私室へと移っていた。

 そこにこの国の政治責任者の宰相が声を上げながら飛び込んできた。


 この男、よく考えて何かを実行するにはとても有能である。

 まぁ、多少は感情に走ることはあるが、その時でも他者の言葉を聞き、直ぐに冷静になるから宰相としては適任と思っている。


 それはともかく、彼がこんなにも慌てているのは先程まで謁見室で喋っていた御仁が原因であるのは誰でもわかる。


「我が君!先程の司教の要請、何故お飲みになったのですか?」


 先程まで我の前で膝をついていたのは王都にある教会を纏めている司教。

 簡単に言うと王都にある教会の責任者だ。


 ……。


 あまり変わらんな。

 まぁ、何だ。その司教が我に、と言うか、我が国に要請してきたのだ。

 国境を封鎖してくれとな。


「国境封鎖くらい大丈夫だろう。何が問題なのだ?」

「司教の申請はわかります。ですが、国境を封鎖となれば、最近は改善してきた隣国、エンフィールド王国からどんな難癖を付けられるか気が気でないのです。先程の命令を即刻取り消しをお願いしたい」


 そう言うがなぁ……。


 確かにエンフィールド王国との国境を封鎖したとなれば戦争準備と見られてもおかしくない。だが……。


「確かにお前が言うように、何を言われるかわからん。だが、教会からの要請となれば断れるもんでもないだろう」

「確かにそうですが……」


 だろう。何が問題なのだ?


「ですが、教会が追いかけるが我が国へ入り込んだとはどうしても思えないのです」

「何だそんな事か」

「”そんな事か”、じゃありませんよ。大問題ですよ」

「気にするな」


 我はそんな小さな事は問題ではないと考える。

 背教者は教会の問題であって、我が国とは何ら関係がない。

 それに……。


「教会の事は教会に任せておけばよい。我らはエンフィールド王国に説明の使者を立てれば良いだけだ。教会からの要請があったと声明すれば末て解決。そして、被った被害は教会が保証してくれる。何が不満なのだ?」

「ですから、それが不満なのです。いくら教会が巨大な組織であったとしても、我が君に頭ごなしで要請と言う命令です。不満だらけです」


 宰相が言うのも尤もだ。

 だが、教会を相手にして勝てるかと言えば……。無理だろうな。

 仲が改善してきたエンフィールド王国だけじゃなく、他の国も連合を組んで攻められるだろう。

 我はそれでも構わんが、民草はどうなる?

 我が我慢するだけで裕福な生活ができるのだ。


「宰相!その話はもう終わった。これ以上言うのはお前と言えども許しておけんぞ」

「……そうまで言うなら仕方ありません。早急にエンフィールド王国に使者を立てます。そして、東部地域の領主たちにも王命として下知を送ります」

「それでよい。早速準備にかかれ!」

「御意にございます」


 宰相は不承不承との態度を表に出しながら我の部屋を出て行った。

 宰相の気持ちもわからんでもないがな。

 自分が仕える主が蔑ろにされたんだからな。

 それに背教者とは何だ?

 何時、我が国へ入った?

 教会に弓引く輩程度で国境を封鎖する必要があるのか?

 疑問ばかりだ。


「ま、今は考えるよりも手を動かす事だな」


 我は教会についての思考を放棄すると、各領主へ下知書をしたため始めるのだった。

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