-10- クリガーマン教授2(2/2)

「イチチチ……。何も殴ることは無いじゃないか?エルザよぉ」


 私は殴られた左頬を抑えながら床からソファーへと場所を変えた。流石にあのままだと服が汚れてしまうからね。


「教授!今回はわたしがうっかりしてたので許しますけど、次はきちんと報告させていただきますからね」

「わかったよ。でも、ずっと禁欲性活を送ってたんだから仕方ないと思ってくれても……」

「何か!!」


 私が何かを言おうとしたのを遮って、エルザが怒声を浴びせてきた。

 いやぁ、おっかない。


 この数か月、王都からサラゴナへ出張していたので、その手の生活とは無縁だった。仕事が忙しく深夜に寝られず、昼間に睡眠を取っていた時もあったからなぁ。そんな生活が終わって、目の前に質の良い面積の少ない布地があれば誰だって目を奪われると思うのだがなぁ……。

 でも、今日の所はこれ以上怒らせてはならないから口を紡ぐとしよう。


「これだから奥さんと子供に逃げられるのですよ。少しは反省してくださいね。では」


 余計な一言を残してエルザはドアを”バタン”と閉めて出て行った。

 あの性格が無ければ結婚はすぐできるはずなんだけどなぁ。

 あれが独身ってのはちょっと勿体ない気がする。

 私とは年齢的に釣り合っていないから手を出さ無いが……。

 ヴィリディスなんか良いと思うんだがな?


「おっと、それよりもだ。届いた荷物を開こう」


 目の前のテーブルに置かれた荷物に視線を向ける。

 差出人はバシルだ。

 あれ?バシルって死んだんだよな?

 ヴィリディスから聞いたから間違いないはず。

 バシルが持っていたと言う写本を持っていたしな……。


 まぁ、深く考えるのは止めよう。

 とりあえず、包みを開けるとするか。


 そう思いながら丹念に包まれていた小包を開けて行くと、紙の束が現れた。

 ちらっと見ただけだが、彼が記した物に間違いないだろう。


「さて、これはどれだけの値打ちがあるのかな~。それにしても汚い字だな。やっと読める位だ……」


 バシルの紙の束は挨拶が掛かれた手紙に始まり、掛かれた環境と経緯が記されていた。

 闇夜でかがり火を頼りに書いたんじゃ、字も崩れるな。そこまで急いでいたのか……。

 遺跡には教会から司教が派遣されて見張りについていたとも記されていた。


 その遺跡のさらに奥、別の場所に小さな遺跡が残されてて不思議な文様を見つけたとある。


「それがこれか?」


 用紙一面に大きな二重の円が描かれたそれを私は手に取る。

 これが床一面に描かれていた……と?

 更にその描かれていた線に魔力計を当てたところ、微々たる量だが魔力が計測された、だと?その魔力は生まれたての赤子の量とほぼ同じ?


「と言う事はこれは魔法陣の一部って事か?」


 魔道具に使われる魔石には、魔力を通して効果を出す線が引かれている。その線はとある物質を使うのだが、その線は魔力を帯びていると言われている。それと同じなのかもしれない。


「そう言えば、トロールがいた遺跡にも同じ様なのがあったな……」


 そうだ、思い出した。

 トロールが住み着いていたあの遺跡。ボストロールが巣にしていたあの場所にも二重の円が描かれていた。私は興味を引かれなかったが、ヴィリディスはそれをしゃがみこんでまで入念に見入っていた。

 奴はこれを知っていたな。


「これはヴィリディスに聞く必要があるな……。ん、続きがあるな」


 私は更に用紙をめくって次のページを見入る。

 そこにはとんでもないことが記されていた。


「そこに巣くっていたゴブリンが身体強化魔法を使っていなかった可能性があるだと?それをヴィリディスに聞いて調べている、だとぉ!」


 私は思わずその手紙をぐしゃっと握りつぶしてしまった。


「あいつ……。この私に隠し事をするとはな。懲らしめてやらんといけんな……」


 そう思いながら自分の机へと戻り、ヴィリディスを呼び出す手紙を早速したためるのであった。

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