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 僕たちが王立高等教育学院へクリガーマン教授を送り届けた翌日、荘厳にして美麗、悪趣味と全く思えぬ白亜に彩られた王都でも五指に入るほどの巨大な建物、教会へと足を運んだ。

 恰好は当然、街から街へと旅をする恰好とは違い、街中になじむ様な恰好をしている。ただ、治安が良いとは言っても完全無防備に出来る筈も無く最低限の装備を整えている。僕は普段使いの剣を、フラウはショートソードを、そして、ヴィリディスは背の高さもある杖を持っている。このくらいであれば街中で他者に圧力を与えないだろう。


 何故、教会の秘密を知っている(かもしれない)僕たちが、わざわざ敵の懐に入って行ったのかは理由がある。

 簡単に言うと、教会が”光属性魔法”を使っているか、その確認だ。


 確かに、誰もが一度”祝福の儀”を受けているから真っ白い光に包まれるのは体験しているから間違いないと思われる。

 でも、それ以外、奇跡による治癒は聞いたことがあるだけで見たことは無いからね。

 あわよくば一度見る事が出来たら……、って思っただけの事です。


 上位貴族や豪商がひしめく王都だったら一日一回は奇跡を見れるんじゃないかって淡い期待を抱いて……。

 だけど、そんなに簡単に、そんな現場に、そうそう遭遇する筈も無い。

 だから、今は少ないながらも司教にお布施を納めて神様の前でお祈りをしている。


(教会から追われませんように……)


 僕はごく普通(?)の祈りを捧げる。

 フラウとヴィリディスが何を祈ったのか、定かではないが、かなりの時間祈っていただけは確かだ。

 後で何を祈ったか聞けるかどうかは……定かではない(キリッ!)


「お祈りも済ませたし、ギルドでも行こうか?」


 お祈りを終えて顔を上げ二人に次の予定を提案したところ……。


『司教!司教いますか!!』


 子供を抱えた男が一人飛び込んできた。恰好は親子とも上等な服装なのでお金持ちであると一目でわかる。

 う~ん、こんな展開あるんですね。

 思わず神様に”ありがとう!”って内心で叫んでしまった。


『なんじゃ、騒々し……うっ!』


 僕たちにとっては待っていましたと言わんばかりの絶好の機会。飛び込んできた親子には申し訳ないけど。

 その子供だけど、親の腕の中でぐったりとしている。顔は赤く、かなりの高熱を出して辛そうに見える。冬が過ぎて春になったから流行り病とも違うだろうし。もしかして魔物の毒にでも当たったかな?


『どうしたんだ?』

『息子が、何かに噛まれたようで……』

『と言う事は毒ですな』


 父親が子供の腕を捲って見せている。魔物ではなく普通の動物に噛まれたみたいだな。春になって冬眠から覚めた蛇に噛まれたんだろうね、恐らく。

 それなら何となくわかる。

 でも……。

 この王都の中に蛇なんているのか?


 疑問は尽きないけど、司教を見ていると直ぐに奇跡を見せてくれるらしい。


『早速治療を施しましょう。では、お布施を……』

『こ、こちらに……。なにとぞ、よろしくお願いします』


 父親は金貨を皮袋に入ったまま渡したよ。

 金貨にして数十枚か?僕たちじゃあれだけ稼ぐのは何年かかるだろうか?


『では、こちらに……』


 司教は礼拝堂の端にある大きなテーブルに寝かせるようにと指示を出した。テーブルって言っても布をかぶせてベッドの様になっているだけの簡素な物。急病の信徒や王都市民が来た時に使っているんだろう。


『司教、お願いします……』

『任せておれ』


 司教は手を子供の額に当てて祈りを捧げる姿勢を取る。

 その直後、白い光が子供を包み込んだ。

 暫くそのままの状態が続き、フッと光が消えると、スースーと安らかな無い気を立てた子供の姿があった。


『これで大丈夫だろう』

『ありがとうございます、司教様』


 父親は司教に頭を下げて礼を言うと子供をしっかりと抱きしめて教会から去って行った。




※こんなご都合展開……。

 ありきたりですみません。

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