-46- トロール狩り18

「はあぁぁぁぁぁーーー!!」


 渾身の力をふり絞りボストロールへ飛び掛かった。

 数歩の距離を目にも止まらぬ速さで駆け抜けた、と言ってもいいだろう。ボストロールの目にどのように映っていたか気になるが、棍棒の振り遅れを見れば何となくだが理解できた。

 ボストロールが棍棒を振る前に懐へ飛び込むと、振るってきた左腕を肘の辺りに向かって剣を振り上げた。

 薄く光る魔法の剣が闇の飲まれんとする景色に白い弧を描く。

 その直後、真っ赤な鮮血が飛び散ると共にボストロールの左腕が宙を舞う。振っていた棍棒が僕の右脚を掠る。太腿に痛みを感じるが今は二撃目をトロールにお見舞いする時だとそれを我慢しながら振り切った腕をもどして突きの体勢に入る。


 コンパクトに畳んだ腕を突き出しながら、痛む右脚で地を蹴りボストロールの心臓へこの身を跳躍させる。棍棒がかすった右脚が”ズキリ”と痛む。表情を歪ませる。

 だけど、切っ先だけはトロールの心臓から外すわけには行かない。腕を伸ばしながらボストロールへと体当たりを仕掛ける。


 手ごたえがあった。

 切っ先がボストロールの胸へと突き刺さる。

 ふよふよとした脂肪の塊の感触、そして、それを抜けると筋肉質の塊を貫いた。更に薄い脂肪を突き破ると切っ先はトロールの背中へ突き抜けていた。


 僕はやり切った、そう思った矢先。


「ぐはぁっ!」


 左からの衝撃に襲われゴムまりの様に吹っ飛ばされてしまった。


 後から聞いたんだけど、ボストロールが血の流れが止まらぬ右腕で僕を殴ったらしい。ぶん殴ったというよりも腕を鞭のようにしならせていたのだそうだが。

 もし、拳が健在だったら直接殴られてあの世に行っていただろう。右手首から先を切り落としていた事が不幸中の幸いであった。


 心臓に剣を突き立てた。

 刃がトロールに生えている。

 治癒能力は働いていない。

 両腕から鮮血が流れている。

 こうなるとトロールも終わりだ。


 僕に向けていた殺意を孕んだ視線も徐々に力を失い、そして、瞳から光が消えると同時に”ドスン”と倒れたのである。




 トロールの一団を倒しきったのだから喜んでもいいだろうが、僕はその気になれずにいる。

 ボストロールの最後の一撃。アレは致命傷に近かった。いや、致命傷まではいかないが、直ぐに起き上がる気になれない。

 呼吸は苦しくなるし、吹っ飛ばされて身体のあちこちから悲鳴が上がっている。ぶら下げていた普段使いの剣も外れて飛んで行ったし……。

 死ななかっただけでも御の字と言った所だろう。


 仰向けになって色を失った空を見る事しか出来なかった。


「コーネリアス、大丈夫?」

「無事か?盛大に吹っ飛ばされたが……」


 ボストロールに吹っ飛ばされた僕の下へフラウとヴィリディスが駆けつけてくれた。

 有難い仲間を持ったものだ。


「ごほっ!い、いち……おうは……」


 息が苦しく、満足に言葉を発せられない。

 無事だと言いたいが、僕の状態は無事とは程遠い。辛うじて生きている、そう言っても過言でないかもしれない。


 ヴィリディスは鞄からポーションを取り出して僕に飲ませてくれる。

 寝そべったままでは無理なので、背中を抱えて起こしてくれるのだが……。

 自分の力で起きている訳じゃないのに、凄く痛いんだが……。

 ゆっくりとポーションを喉の奥へと流し込むが、直ぐに痛みが引く訳でもなく、暫く痛みとは別れられそうにないな。まぁ、後腐れもなく別れられるんだから、贅沢は言ってられない。


「それにしても太腿は酷いぞ。これでよくあんな攻撃が出来たな?」


 ヴィリディスの言葉に視線を太腿に向ける。

 ズボンが破けているのは何となくわかったが、あの痛みはこれが原因だったらしい。

 皮が破られ真っ赤な血が流れていたのだから……。


 それを見ながら、僕は張っていた気を緩めると同時に意識を手放していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る