-44- トロール狩り16
ボストロールが棍棒を振り回す。
大振りの攻撃など僕に当たる筈も無い。尤も、間合いは十分に取っていたからね。それに高間合いを取ってるんだ、ボストロールも本気じゃないだろう。
だけど、兵士たちも棍棒の攻撃範囲にわずかばかりだけど入っていたが、すんでのところで避ける事が出来、怪我をすることは無かった。それでも何本か槍が持っていかれたらしく、魔道具の光に照らされてきらりと光を放っていた。僕の方には飛んでこなかったが、兵士たちはそれを避けるのにのけ反って体勢を崩していた。
標的は僕だから良かったけど、これが兵士達だったら……。
うん、考えるのは止めてトロールに全力を向けよう。
「くっ!棍棒がっ、厄介っ、だなっ……」
膂力で振り回される棍棒が一番の脅威だ。
それが無くても十分脅威だけれどもね。
さて、どうすれば良いか、間合いを狭めたり、開けたりしながら考える。一瞬の判断ミスが地獄の一丁目への片道切符。流石にそれだけは御免被りたい。
とは言いながらも手が無い訳でもない。普段使いの剣だったらダメだけど、この業物の剣は魔法によって切れ味が底上げされている。だから、棍棒自体を破壊してしまえば良いのだ。
……だけど、棍棒を振る速度が尋常じゃない。
目の前で止まらなければ無理だよ。
ぶん回してきたところに合わせて刃で切り落とすって方法もあるけど、どうだろうか?
……刃がスッと入らずに手首をグリッとやってしまう未来しか見えない。
何とか地面に向かって振り下ろさせられないかな?
そんな事を思いながら躱して隙を伺っていると、大きな隙が生まれた。
自力でそんな事が出来ていたらすでに勝負が決まっているはず。だから、自力じゃない。
ボストロールの視界の外からヴィリディスが放った”火矢”が顔面で炸裂した。
僕以外から攻撃が来る筈も無いと思っていたのか、棍棒を振り回そうとしていた時だったから大きく体勢がが崩れた。
そのままだったら棍棒を横薙ぎにして来る筈だったが、二撃目の”火矢”を警戒してか棍棒を顔の近くまで振り上げた。
そう、その時一瞬だけど僕から視線が外れた。
好機到来とばかりに身を低くしてボストロールに向かって飛び込んだ。
でもこれは本気の攻撃じゃない。あくまでも攻撃を誘う為の行動だ。
高く上げた棍棒を横薙ぎにするよりもそのまま振り下ろした方が攻撃のタイミングとしては理にかなっているはず。頭の悪いトロールならきっとそうする。
もし、振り下ろさなければ隙が大きくなり僕が攻撃できる。
さぁ、どっちだ?
と、思う間もなくボストロールは棍棒を高く掲げ、振り下ろしてきた。
仕掛けは上々。
いくら膂力により攻撃力があったとしても予想していた攻撃なら躱すのは容易い。僕でなくても誰でもね。
僕はその場でブレーキを掛けるとともに左に少しズレて棍棒が振り下ろされるのを見送った。風圧が凄いが当たらなければ問題ない。
そして、棍棒が地面に突き刺さりクレーターを作り出す。石礫が僕を襲うがそれも予定していた事。瞬時に剣を振り始める。
「はぁっ!!」
棍棒を振り下ろし地面に激突した瞬間、ボストロールの動きが止まる。
ほんの一瞬だけ。
でも、それで十分。
僕が振るった剣はボストロールの右手首へと吸い込まれ、そして、わずかな手ごたえの後、スッとそこを通り抜けた。そして、振り抜いた後には綺麗な断面を見せながらボストロールの右手がボトリと零れ落ちた。
当初、棍棒を破壊してやろうかと考えたけど、目の前に手首があったから思わず切ってしまった。
ボストロールの追撃を恐れた僕は即座にその場から飛び退き、攻撃の間合いから逃れた。
「そう言えば、治癒能力があるんだっけ~。失敗した……」
ボストロールの右手首を切り落としてから思い出したように呟く。
そう、トロールには治癒能力があり、手首を切断しただけじゃ、拾われて直ぐにくっ付けられてしまうんだ。トロールで一番注意しなきゃいけない事だけど、メス三体のトロール戦で治癒能力が働いてなかったからすっかり忘れてた。
やってしまった事は仕方がない。
仕切り直しにするしかね。
僕はボストロールとの戦いを仕切りなおそうと、身を翻し切っ先を向けて息を整えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます