-34- トロール狩り6

 気合十分。

 必ず殺すと書いて必殺!

 さぁ!と思ったが、その前に援護の兵士がトロールに牽制する。

 うん。

 それは嬉しいけどさぁ、君たちの槍でトロールは倒せないから少し退いてくれるかな?


 トロールの気を引いたところで二人の兵士がトロールから離れた。

 牽制しながらだから近すぎず遠すぎずって所だ。

 二人しか援護に回って来ないからどれくらいの腕か心配してたけど、思った以上に経験豊富らしい。

 ヴィリディスにちらりと視線だけ向けるが、いつでも魔法を放てる準備が整っている。

 フラウも弓を番えて牽制に回っている。


 今が絶好の機会。

 僕は二人の兵士のポジションを見て全力で剣を振り切れる場所を見つけた。


「はぁっ!」


 軽く身体強化魔法を施し地面を蹴りつける。

 想定通りの力で身体を跳び出させるとトロールは目の前。

 気を逸らしていたトロールが僕に対処できるはずもない。

 剣を一閃。

 手ごたえは十分。

 通り過ぎながら太腿を切り裂いて、いや、切断していた。

 そして、僕の通り過ぎた直後、後ろから”ドスン”と音が聞こえた。

 トロールがバランスを崩して横倒しになったのだろう。


「火矢!!」


 僕がトロールの太腿を切りつけると同時にヴィリディスの魔法がトロールに発せられた。


 直ぐに振り返るとトロールに火矢が着弾していた。

 当然、僕が手ごたえ十分と思った切断面。太腿に火矢が突き刺さって燃え上がり、切断面をこんがりと焼いていたのだ。


「ギャアァァーーーーー!」


 流石のトロールも生きたまま肉を焼かれては平気でいられない。

 痛みを堪えるためにゴロゴロと地面を転がっている。

 こうなればトロールと言えども敵ではない。


「まな板の上のカニかな?」

「何処のことわざか知らないけど言いたいことは判るわ……」


 地面にトロールがゴロゴロと転がっているけど、後は首を切断しちゃえば終わりだ。

 水の中では俊敏なカニでも、吊り上げてまな板の上に乗せちゃえばどうすることも出来ない。あとは介錯をしてあげるだけ……。


 ヴィリディスが焼いた太腿も焼けただれて回復する様子は無い。そこを切り落としてしまえばもしかしたら治癒してしまう可能性もあるからそれだけは防がないといけないけど……。刃物を持っていないトロールにはそれは無理だろう。


 って、事で。


「えいやぁ!」


 ゴロゴロと転がるトロールの首にタイミングを見計らって剣を振り下ろす。

 魔力の籠った刃はそれだけでトロールの首を切断する。

 そして頭はごろりと転がり、主のいなくなった首からは真っ赤な鮮血が噴水の様に吹き出るのであった。


「一匹駆除成功……っと。他は?」


 僕は”ふうっ”と息を吐き出し、残りのトロールへ視線を向ける。

 膂力自慢のトロールでも五人以上の兵士に取り囲まれてしまえば為す術などない。槍を主体とする兵士の攻撃とは言えども確実に弱らせられ、終には膝を付く。

 全身の傷はすでに塞がってはいるが、流した血は流れて跡になっている。所々に見える黒い跡は魔法で焼けただれた為だ。


 治癒能力を持つとはいえ、こうなれば命を散らすのみ。

 頭部に火矢を受け、眼球から槍を突き刺され、頭蓋とうがいを割られ、脳漿を撒き散らされ、その命の火を消されてしまう。


 人海戦術の成せる技と言えよう。


「終わったようだな……。全員報告!」


 兵士の指揮官が全員に報告を促す。叫んでしまえばトロールがすぐにでも現れるだろうから声量は抑え気味だ。


 終わってみればトロール三体に完勝だった。

 僕の打ち身や兵士が少し怪我を負ったくらいで、命に別状は無い。

 生命の危機を感じたかと言えば、まぁ、その通りだろう。少しぎりぎりの戦いになってしまったか?

 それでもポーションを使えば誰もが戦いに復帰できるのだから少しくらい喜んでもいいだろう。


「それにしても、こいつ等、小さくないか?」

「そうか?」


 命の火が消えたトロールの横でヴィリディスがぼそりと呟いた。

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