-8- バシル1-1(1/4)
土色のローブを纏い、森の中を疾走する。
幸いなことに日は登り始めたばかり、沈み込む森の土に刻みつけた足跡がよく判る。
「地面が柔らかいと走り難いな。ベッドにするには丁度良いかもしれんが……」
魔物に怯えながら道から外れた森を進むのは非常に神経を使う。走り慣れたこの俺だって複数の魔物に襲われたらひとたまりもないからな。
それに魔物以外にも注意しなくちゃいけない対象だってある。今回はそっちの方が怖い。
ウェールの街を出発して早七日。そろそろ目的地が見えてくるはずだが……。
「……見えてきたな」
足を緩めて景色を楽しむ。
木々の間から想像と同じ、城壁の崩れた街が覗いている。
ゴブリンが千匹近く住処にしていたと言うが、千匹どころではなく人間だったら一万人も住めるのではないかと思えた。
建物がしっかりとしていて、商業も盛んだったら。そんな条件を満たしたら、だ。
「なるほどね。確かに教会の奴らが来ているな」
俺は厚手の服に土色のローブを纏っている。
この色合いならば森の中を駆けまわるには持ってこいなのだ。これが夏だったらもっと緑を入れた色合いにしたりするのだが。
そんな俺の服装とは違い、教会の奴らは何時もの修道服だ。教会では光の加減で厳かに見えるが、こんな場所では逆に怪しさを醸し出している。特にあの真っ白いシャツは何とかならんのかと思う。その上から黒い前掛けをしているのが唯一の救いだろうか?
教会主導で行われているとは言え、奴らは入り口あたりで屯しているだけだ。
遺跡の内部へ入り込んだ様子も無ければ、何処かへ向かう様子も無い。
言ってしまえば、入り口を見張っているか、誰も入らぬように警戒している、そんな様に思える。
「ま、こちとら内部には用事は無いからな。お仕事ご苦労さん、残念でした~」
教会の奴らに見つからぬよう、静かに森の中へと姿を消し、聞いた目的地を目指した。
森の中を進み、更に大周りで遺跡を回避したために目的地に到着したのは、日の光が間もなく真上から照らす、そんな時間だった。
見つからぬように歩くのも大変だな……。
敵は教会だけじゃない。
魔物や獣もそうだ。
まぁ、集まっていたゴブリンを殲滅したから魔物の類はまだ近寄って来ない。だが、冬眠間近の獣は手負いの魔物以上に厄介だった。
熊に蛇、珍しい所でリスなどの小動物も現れる。
まぁ、熊やリス等は近寄って来ないがな。
一番の敵はひょろ長の蛇であるのは間違いないだろう。
目の前に現れるのなら問題無いが、木の上から突然落ちてくるのだからな。
警戒しててもあれにはびっくりする。
……びっくりするだろ?
真正面に視線を向けていたらボトリと頭に降ってくるんだから。
このあたりには巨大な蛇が居ないだけまだマシなのだろう。
別の場所では胴体廻りが二十センチや三十センチの蛇がいて、人間が丸飲みされてしまったと聞いたことがある。
うん、蛇は止めよう、手を出すのは。
「そろそろ見えるはずだが……。っと、あれか?」
オレの視界に入って来たのは巨木とそこにぽっかりと空いた洞。遠目にはそう見えるが、根元をじっくりと観察すると、四本の木が一つに纏まって巨木になっていると判る。
まぁ、同種の木ならありえるのだから、不思議ではない。
(アヤツが言うにはここに歩哨が立ってたんだな)
洞にゆっくりと近づき地面に手を触れる。
森一面に広がっている土と同じだ。
落ち葉が積もって栄養状態が素晴らしい土だ。
こんな地面だったら巨木になるのも不思議ではないな。
とは言え、同じように育った木は皆無。
この場所だけ巨木に育っているのも一見不思議ではあるが……。
「ま、調べてみんことにはわからんだろう。とりあえず、入るとするか。ゴブリンの巣になってない様に……」
オレは洞に向かって手を合わせて願望を口にすると、松明を取り出して洞の中へと入って行った。
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