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 その日、僕とフラウが冒険者ギルドに戻ってきたのは日が沈んだ少し後だった。

 時間ギリギリに狩った魔猪の処理に少し手間取ってしまったので仕方がない。

 そのおかげと言うか、ギルドに戻った時にはかなり注目を浴びたものだが。


 納品も終わり、”さぁ、宿に戻るか”、と思ったのも束の間、フラウが僕の腕を掴み酒場へと連れていかれた。

 何時ものフラウなんだが、ちょっと強引なそんな気もしないでもないが……。


 そんな事を思いつつ、テーブルに付くと先客が待っていた。

 思わず”あっ!”と叫んでしまうその人はパーティーメンバーのヴィリディスだった。


「待ってたぞ。相変わらず仲がいいな」

「ふふふ、妬けちゃう?」

「よせやい。そんなんじゃねぇぞ」


 フラウが揶揄うが、すでに出来上がっているヴィリディスは上機嫌で笑顔を見せていた。

 普段笑みを見せずクールに装っているヴィリディスが笑顔を見せているのだ、かなり機嫌が良いのだろう。


「酔ってはいるが、そこまで飲んじゃいないからな。歩いて帰るくらいはなんてことない」

「それ以上飲まなければでしょ」

「そうとも言う」


 呆れ顔のフラウを横目に僕は夕食と飲み物を注文する。当然、フラウの分も。

 普段は少し陰気で物静かなヴィリディスが、ここまで酒を飲み笑顔を見せているのは始めてかもしれない。

 まぁ、酒に呑まれるな、と助言するだけだが。


 その上機嫌なヴィリディスを前にして、なんとなく魔法関連で何か良いことがあった、と推測は出来るが……。

 魔法関連に疎い僕には思いつく理由など無かった。


「お前たちが仲が良いのは喜ばしいとして……」

「そこは触れないで欲しいかな?」

「なら黙っておく」


 ヴィリディスが追求しようとしてきたがフラウが言葉を遮って待ったを掛ける。

 誰が聞き耳を立ているかわからぬ公共の酒場で、私生活を押っ広げおっぴろげるなどできない。自らの恥部を広げているような気がする。

 それで、しんと静まり返った森の奥では話ができるかと言われれば話の方向性が変わってしまうので話題にも上がらないだろう。


 僕としてもせっかく仲良くなったフラウと仲違いなどしたくないからね。

 この話はこれで終わりにしよう。


「それはともかく、一先ず用事は済んだから、しばらくはパーティーとして行動できるぞ」

「それはうれしい誤算ね。これでもう少し良い稼ぎができるわ」


 今日は運よく魔猪を狩れて良かったが、普段は街の外に出てもそれほど儲けは無い。

 ゴブリン殲滅戦で潤った懐を崩しながら、とまでは行ってないが、上を目指すのなら戦力的に不足していると言わざるを得ない。

 だから、ヴィリディスが復帰してくれるのは非常にありがたい。


「思ったよりも早く用事が済んだのだな。もっと時間がかかるかと思ってたぞ。一か月とか、もしかしたら二、三か月と」

「ああ、そうだな。思ったよりも調べが捗ってな。とはいってもオレが調べられるのはたかが知れてる。知り合いに見せる資料を纏めてたってところだな」


 ヴィリディスの口からはそれ以上は語られなかった。

 僕が二人に合流してからヴィリディスが深い思考を見せたのはあのゴブリン殲滅戦に参加した時だけ。どこでと言われればあの不思議な文様が土の中から発見された時だ。発掘したのはゴブリンたちだったが。


 そうなると、あの文様についてか、その後に僕が不思議に感じたゴブリンたちが何故魔法を使っていなかったか、だ。

 誰に協力を求めたかなど、ヴィリディスが語らないのだから、追及は出来ない。


 それはともかくとして、三人パーティーを再開できるのは非常に嬉しい事だ。


「うん、料理が揃ったね。再び三人で集まれたことに、かんぱ~~い!!」


 フラウも、ヴィリディスも、僕も、再び集まれたとを嬉しく思いながらグラスを傾けるのであった。

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