プロローグ2
—
——。
―――。
「———ガ、ナルガッ、おい、ナルガッッ!?無事かっ!?」
「———はっ!」
師匠の切羽詰まった声が聞こえ、ナルガは勢いよく目を開けた。どうやら、いつの間にか床に突っ伏して意識を失っていたらしい。
「一体、何が……?」
ナルガはのろのろと起き上がり、辺りを見渡した。そして、絶句した。
家が明らかに人の手で壊されたものではないと一目でわかるほどに無残に半壊していた。さっきまで立っていたキッチンの一部も綺麗に消し飛んでいる。
「無事か、ナルガ」
声が方向を見ると、ナルガを守るようにして背を向けてしゃがみ込んでいる師匠の姿 が見えた。
「な、なんとかな」
「よかった」
ナルガの無事を確かめた師匠は安堵した様子で息を吐いた。
「……あぁ、クソっ。タイミングの悪い奴らだ」
師匠が誰へともなく呟いた。その声音には強い怒りと殺意が混じっていた。
「ナルガ、近くに来てくれ」
「あ、ああ」
「これを」
いきなりの事に戸惑いながらも師匠の元にたどり着くと、師匠は手に持っていた刀を手渡たした。
「え?これって大事なモノなんじゃないのか……?」
ナルガはかたなに落としていた視線を師匠に向けると、師匠は何かを悟った表情をしていた。
その表情を見たナルガも何かを悟った。
「そうだ、これも必要ないかもしれないが……これもやる」
再び師匠から手渡されたものをを見てみると、それは綺麗に折りたたまれた白色の衣服だった。
おそるおそる広げてみると師匠が身に着けているものに似ているロングコートだった。
「いつか渡そうと思って……私のを真似して作ったんだが……」
師匠は照れくさそうにして薄く頬を赤らめて視線を逸らした。
ナルガは受けっ取った刀を後ろ腰のベルトに取り付けると、早速、白のロングコートを黒シャツの上から羽織ってみる。ロングコートはナルガの体格にぴったりと合い、とても着心地がよかった。
「すごく似合ってるぞ」
師匠に褒められてナルガは、嬉しさ半分、照れくささ半分の笑顔をこぼした。
「でも……なんでこんなヤバそうな状況で渡すんだ?」
微笑を消したナルガは当然の疑問をぶつける。
「……ごめんな」
師匠は今にも消えそうな声で短い謝罪を口にし、ナルガの頭の上に手を置いた。
「本当はこんなことに巻き込みたくなかったんだがな……」
ナルガの頭を優しく撫でる。
「不甲斐ない師匠でごめんな、何もしてやれなくて……」
ナルガの頭を優しく撫で続ける。
「ありがとな、ナルガ」
師匠は慈愛に満ちた表情でナルガを優しく抱擁する。
『……なんで最後の別れみたいなことを、言うんだよ……師匠?なんでだよ?』
と、ナルガは師匠に尋ねようとする。しかし、ナルガはその言葉をぐっと飲み込んだ。
気づいていた、本当は気づいていた。師匠はこれから死地に向かおうとしてることに。でも、信じたくなかった。……だから、ナルガは気付かないフリをする。
「……そんなに悲しそうな顔するなよ、ナルガ。また会えるさ」
そんなナルガの心情を見透かしたように師匠はナルガの頭を撫で、小さく微笑んだ。
「ああ、そうだな」
ナルガは無理矢理強がった笑みを浮かべる。
『そこかな?』
突然、呑気な若い女の声が聞こえたかと思うと、再び爆音が響いた。ナルガ達が隠れている家の壁の一部が派手な音を立てて消し飛んだ。
「ここも持ちそうにないな。もうちょっと話したかったが……どうやら、ここまでだな」
師匠は心底、残念そうに呟くと、ぱちんと、音を立てて指を鳴らした。
その瞬間、ナルガはひどい眠気に襲われた。
「……う」
睡魔に抵抗することも出来ずに、四肢から力が抜け落ちたナルガは床に倒れる。
「おっと」
床に勢いよく倒れ込む直前に師匠に受け止められ、そっと床に寝かされた。
「し、ししょう。どうか、ぶ———」
———眠気の波に襲われ言葉が途切れる。
「……じゃあな、私の自慢の弟子。元気でな」
急速に意識が薄れていく中、そんな師匠の声が聞こえた気がした。……そのあとの事は何も覚えていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます