悪い子にはエッチなお仕置きを! 中編
思い立ったが吉日とばかりに作業に取り掛かる。
机に突っ伏している
両手を後ろで合わせて背もたれに縛り付けたロープと絡ませて固定する。右足、左足を椅子の足とロープで縛り、これまた固定させる。
するとどうだろう。
くたりとなった橘は起きた途端焦りだすことだろう。身動きが取れない事を知って。
筆を用意して、準備万端だとばかりに橘の起床を待った。
数時間後。時計が午後十時を指した頃。
気持ちよさそうに眠る橘の姿があった。
「いつ起きるんだ! もう帰りたいんだが!」
薬に弱い体質なのか、起きる気配が微塵も感じられない。
だが、眠る橘の顔を見ていると、起こしてやるのは少々可哀想で躊躇われた。
「ん、んん……っ」
ずっと橘を眺めていたら漸くその目は少しずつ開きだした。
「おはよう橘」
「ふぇ!? 委員長?」
まだ覚醒しきっていないようで、目はうつろだった。
「よく寝てたな」
「あ、そっか。眠り薬盛られたんだった」
「人聞き悪いことを言うな!」
「えっ!? なにこれっ!?!?」
ようやく置かれた状況に気づいたらしい。橘が慌て始める。
「風紀を乱す橘にはお仕置きが必要だと思ってな」
「はあ!? こんなことする委員長の方がよっぽど風紀乱れてんじゃん!」
確かに一理ある。
この刑はアニメだからこそ成り立つのであって、いざ現実世界でやってみると変態行為でしかない。
しかし、更生させるまでは引くわけにはいかない。
「分かってる! 俺だってこんなことしたくないんだ! だから約束してくれ、更生すると」
「具体的には?」
「髪の黒染め、スカート丈の新調、制服の正しい着こなし、ピアスからの卒業だ」
「あームリムリ。めんどくさい」
「お、お前……っ」
拘束されている身でありながらそっぽを向いて反省しない橘。
キレた俺は筆を手にする。
「これを見ろ」
「なにそれ」
「もし改心しないのなら、
自信満々に公言する俺に、不敵な笑みを向ける橘。
「いいよ、やってみ?」
「待て! よく考えろ! これは辛いぞ? 笑い死ぬぞ?」
「いいから、やってみって」
「く……っ」
絶体絶命のピンチに置かれておきながらこの自信。
窮鼠猫を噛むが如く策があるとでも言うのか。
腹立たしい奴めっ。
「本当に良いんだな?」
「どーぞどーぞ」
覚悟を決めて一歩ずつ橘に近づく。
歩きながらどこを攻めるか考えた。アニメでは確か……脚だ。
橘のすぐ傍ですっとしゃがみ、脚を眺める。
「ほー。足からですか?」
「いつまでその余裕が持つかな? 泣き言を言っても知らんぞ?」
「わー! 委員長が風紀を乱してるー!」
「ちょ、あんま大きな声を出すな! 誰もいないとは思うが、もし誰か居たら」
「ふーん。そんな後ろめたいことしてんだ?」
「ち、違う! これは更生プログラムの一環であって決してやましいことじゃない」
ニタニタと微笑む橘に腹立ちを覚えながら筆を足に近づける。
まずは
「どうだ? こそばゆいだろ?」
「さあ?」
全く顔つきが変わらない。効いていないというのか。
少しずつ上の方へ上げていく。
「どうだ? 膝は?」
「さあ?」
「なら膝裏は? もう少し上は?」
「ねえ委員長。種明かししよっか?」
「え!?」
種明かしという嫌な言葉ランキングトップのようなソレに反応して橘の顔を見る。
「わたし不感症なんだよねー」
「不感症……だと」
「そうそう。鈍感っていうのかなー。全然効かないなー」
「そ、そんな……」
あまりの事実に筆を落とす。
またしても勝てないというのか。
もう一度見た橘は「残念だったね」と言ってニシシと微笑んで見せた。
諦めた俺は立ちあがり、ロープを解くためにもう少しだけ橘に近づいた。
――ッ!
その時、とある部分に気が付いた。
この時に気づいた俺を後世に語り継ぎたいほどである。
それは橘の首筋。
新学年が始まったばかりのこの季節。まだ室温は少し寒く、決して暑いとは言えない。
そんな中で流れた一筋の汗。
笑顔を決めているが、焦っている。
俺は再び元の位置にしゃがみ直した。
「え!? 続行すんの?」
「ああ、もう少し続けてみようと思う」
「あのさ、わたし不感症って言ったよね? 出来レースだけど大丈夫?」
橘の話口調にスピード感が乗る。絶対に焦っている。
「平気だ。それでも悪あがきしてみようと思う」
「そう……」
どんな表情をしているのか気にはなったが、敢えて見ることはしなかった。
今度は更に上――太ももを狙ってみた。
「どうだ?」
「さあ?」
「やっぱ不感症には効かないか」
「まあね」
続いて太ももの内側を攻めてみる。
「あ」
一瞬の、本当にか細い声が漏れた。
「ここもダメか」
「だね」
そこから少しずつ上の方――スカートへ向かっていく。
途中、一瞬だが両足が内側に寄った。
「あ、あのさ委員長。ちょっと休憩しない?」
「休憩? 不感症なんだろ?」
「だからだよ。変化ないからつまんないでしょ?」
明らかに焦っている。もうちょっとだ。もうちょっとで更生させられる。
「大丈夫だ。俺のことは気にしないでくれ」
「そう?」
もうすぐスカートの中に入っていきそうな位置だ。
「あ」
また吐息が漏れる。
「委員長、内側より外の方が弱いかも。これヒントね」
見事な策士だな、橘。
そんなヒント、俺には通用しない。
意気込んで更に歩みを進める。
「ち、ちょっと待って! ホントにその先進むの!?」
「何をいまさら…………」
橘が変なことを言うものだから意識し始めてきた。
この先は……そう、女の園だ。
筆だけが進行していくため、ここから先はどこまで到達したかも把握できなくなる。とてつもない罪悪感だ。
風紀委員長のこの俺が風紀を乱しまくっている。
そんな考えに苛まれ、兵の進行が止まってしまった。
「だよねー。風紀委員長だもんねー。さすがにねー」
俺の様子を察知した橘がペースを取り戻す。
「橘、もう良いだろ。更生してくれ」
「いやー、残念だったねー。惜しかったねー」
俺が出来ないだろうと確信した橘が勝ち誇る。
その時、俺の中の何かが外れる感覚に陥った。
「あ、ちょっと……。ふ、風紀は……?」
歩を進めた瞬間、慌ただしくなる橘。
「生憎、今は時間外だ。閉門した今、この学園に風紀委員長は居ない!」
「なにその発想……。あぁっ」
小刻みに震え出す両足。勝ちはすぐそこにある。
「不感症なんじゃなかったのか?」
「そうだよ……。こんなの……ぜんぜん」
「そうか? すごい汗だぞ?」
両太ももに浮き出た粒。数えられないほどだ。
それに気を取られ、ずいずいと進めていた時だった。行き止まりのような感覚に至ったのは。
「あぁ! ち、ちょっと……そこは……」
とうとうたどり着いたようだ。中は見えないが、おそらくそうだろう。
「なあ? もう観念したらどうだ? 更生しますって」
「なに言ってんの? 勝ったつもり?」
「く……っ。お前ってヤツは」
行き止まり以降はよく分からないから、とりあえず円を描いてみた。
「あぁ! ダメ……。ストップ……」
手の拘束が外れそうなほど前傾姿勢を取る橘。
その吐息と行動を見ていると変な気分になってきた。
「ねえ委員長? それなに?」
「え!?」
橘の視線の先を目で追うと、そこには少し元気になったものがあった。
「ち、違う! 断じて違う!」
急いで立ちあがり、橘に背を向ける。
治まれ、治まれ、と何度も何度も暗示をかけた。
「はいはーい! ルール変更を希望しまーす!」
「なに!?」
突然の提案に頭が真っ白になった俺が橘の方を見ると、してやったりという顔を見せていた。
「今のルールじゃ、わたしの勝ちがないんで不公平だと思いまーす」
確かにその通りだ。例え
「わかった。言ってみろ」
「わたしが降参したら委員長の勝ち、わたしは清楚ちゃんに変身。委員長のソレが万歳したら委員長の負け、委員長は不良くんに変身。どう?」
不良くん……。
それは金髪に染めてピアスやネックレスをしてこいということか。
あまりにデメリットが大きすぎる。
だが橘を清楚ちゃんにしたい。
その二者択一に苦悩していると、
「どーすんの、委員長?」
口角をくいと上げながら見てくる橘に触発されて、
「良いだろう。望むところだ」
「んじゃ、交渉成立ってことで」
問題ない。欲情しなければ良い話だ。
今目の前に座っているのはただの猿。そう、動物園にいる可愛く小さな雌猿だ。今からお猿さんの毛づくろいをするだけ。ただそれだけ。
橘に猿の姿を重ねた俺はゆっくりと近づいた。
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