村十分

「――いや、ちょっと待った。って何。普通は村八分なんじゃないの」

「あるんですよP村には、村八分の更に『上』が」


 ※ ※ ※


 村八分、というと『火事見舞と葬式以外の付き合いを全て断つ』ことを言うんだそうな。

 P村では村十分むらじゅうぶという、それよりもっと重い扱いがある。文字通り、火事見舞も葬式さえも関与しない、完全な『無視』だ。

 勿論、そんなこと『御上おかみ』には言わない。村の寄合で内々に決めて、実行するのだ。

 村十分にあった家の者は、とにかく『居ない者』『居なくなった者』として扱われる。行き違えばわざとぶつかり、何も声をかけず振り返りもせず立ち去る(そこに誰か居ようはずがないからだ)。敷地を通らざるを得ないときは土足でまっすぐ通り抜ける――その経路に建物が仮にあるなら打ち壊しながら土足で上がり込む(そこに建物があろうはずがないからだ)。

 仮にその家の者がのたれ死んだとしても、死体は放置され埋めもしない。もっとも――のたれ死ぬまで村に留まった者はいない、という話だ。そりゃ村から出るよね、遠からず。


 ※ ※ ※


「ないわ(ドン引き」

「そりゃ良いことじゃないよ。でも狭い村だからね、『村の取り決め』を破るひとは何があっても『追い出す』しか無いんだと思う」


「――ねえ、なんでこの話、『過去形』じゃないの?」

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