アブとハチと留年生 完
「中海さん、こいつが御所望の怪虫です」
中海所有の豪邸の中で、声が響いた。
「ふむ、ご苦労だった。 直ちに口座へ振り込むとしよう」
「感謝します。 御子息の仇をどうなされるのですか?」
「標本にして飾るつもりじゃ、息子の仇は忘れられぬからのう」
中海はつい先日にアブによりロックバンドにて演奏中の息子を切り刻まれ、亡くしている。 真相を知らぬ老人にとっては、この死骸がハチである事など知る筈がない。
「では、我々はこれで失礼致します。 プロを頼りたい時は、何時でもご相談下さい」
会話を終え、二人の男は豪邸から去っていった。
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ようやく公園に着いたと思ったら、残っていたのは斬殺痕と切り落とされた尻尾のみ。 私達は大金を得るチャンスをまんまと逃したようだ。
「おいおいおいおい! 俺の1000万がとっ捕まってやがる!」
山下が半泣きになって言った。 私も泣きたい。
「仕方ない、取られたものは戻らないだろう。 だが、せめて事の真相だけは知りたくないか?」
「そうだな、何も得ずに帰還したら怪談サークルの恥だ」
「私とお前しか居ないがね」
「そういやそうだった」
一息つくと、私達は尻尾やその周り、公園の奥などを調べに行った。 尻尾にはアブの特徴は無く、どちらかというとハチの尻尾のようだ。 不可解に思いながら道を進むと、巣のようなものが目に入った。
二人でどちらが先に入るか少し小競り合いになったが、結局二人で入ることになった。 巣の中は思いの外明るく、バンドの器具が辺りに置かれていた。 とても化け物が住んでいたとは思えない程に家具が揃えられており、不気味だった。
壁には傷が付いていて、何かしらの争いがあったと思われた。 ボロボロの日誌が、机に一つ置かれている、題名は[ドリームノート]だ。
「どうする? 読むか? 呪われたりしないよな….」
「私が読もう」
日誌を手に取り中身を確認した。 なんて事のない、ただ日常を描いた日誌だ。 しかし、今年に入ってから字体が荒れている。 深夜に公園に来て爆音を鳴らし練習をして帰るバンドマンにアブが激怒し、逆さ吊りしにてバンドマンを食い殺したところからだ。
それから、アブはバンドマンを深夜に狙って食い殺すようになり、戦利品としてドラムやギターなどの用具を奪うようになったと書かれている。
何度も、日誌を書いた奴はアブを説得していたが、アブは人間の味を知り、それを聞き入れることが出来ない状態になってしまっていた。
アブは最終的に、日誌を書いた奴に殺された。
日誌を書いた奴も、何者かに殺された。
この公園には、死骸が一つ埋まっている。 見つかることはもうないだろう。
真相を知った私たちは、日誌を元の場所へ戻しし、それぞれ家への帰路に着いた。
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家に帰ると、少し考える。 バンドマンが来なければ、アブが人を食うことは無かったのか、それとも、いずれは食っていたのか。
アブはどんな奴だったのだろう。 それを知るものはもう居ない。
日誌のことを少し思い出した後、私は就寝した。
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