夜中の訪問者
パープルジャンパー
第1話
私には二人の子供がいる。
上の子は、8歳の活発でしっかり者の男の子。下の子は、5歳の内気な寂しがり屋な男の子。
二人は対照的な性格をしている。
二人の子供達には、母親がいない。
1年前に病気で他界し、それから私たちは3人で暮らしている。
妻の病気は末期の肺ガンで、発見した時には手遅れだった。
妻は最後まで気丈に振る舞っていた。
家族に心配かけまいと必死に笑顔を作っていたんだと思う。
私には辛い顔を見せてくれても良かったのにな…いや、寧ろ私に一番見せられなかったのかもしれない。
私は、すぐに顔に出るタイプだから。入院した妻を前にした時に、動揺していた顔が見て取れたのかもしれない。そんな私に辛い顔なんて見せたら、子供達に伝わってしまうと思ったのだろう。
子供達の事を特に気にかけ、心配していたから。
最後の一時的な退院で、子供達とお風呂に入った時に、背中に出来た大きな手術跡を見た下の子が、「この傷どうしたの?」と聞いてきたそうだ!
妻は誤魔化して伝えたみたいだ。その時の妻の顔を今でも忘れる事は出来ない。
妻は子供達を病院に連れてくることを拒否し続けた。
弱った自分を見られたくなかったそうだ。
この1年の間に2度退院してはいるが、やはり弱っている姿を子供達に見せたくないと
遠方の実家に身を寄せていた。
最後の一時的な退院の時には、これが子供達と会える最後になると、本人にはわかっていたのかもしれない。
子供達が、それから母親に会ったのは、お葬式の棺の中に眠る母親だった。
上の子は、理解していた。もう二度と母親に会えないという事を
この日は、ずっと泣き続けていた。
下の子は、呑気なもんだった。
母親の死を理解しているのか?してないのか?
お葬式の風景を見て、「テレビに映るのかな?」なんて言い出したのだから!
芸能人のお葬式がテレビで流れたのを見て、人は死んだらテレビに映るもんだと思い込んでいたみたいだ。
母親が焼かれ、骨だけになったのを見ても、下の子は、母親の死を実感することはなかった。
平然とした顔を1日中していた。
下の子が母親と共に暮らしていたのは、3歳になる前までで、病気がわかってからは入院し1年以上がたった。ほとんど母親と暮らした記憶がないのが原因かもしれない。
私は、いつも仕事の関係上、帰りが遅く、保育園に下の子を迎えに行くのもギリギリの時間になってしまう。帰り途中でスーパーに寄り、買い物をして帰宅する。
上の子が沸かしてくれたお風呂に3人で入り、スーパーで買ってきたお惣菜を並べて家族3人で一緒に晩御飯を食べる。これが我が家の決まり事である。
子供達が大きくなれば、この決まり事も無くなってしまうかもしれない。
(今ある時間を大切にしよう)
こんな環境は子供達には、良くないかもしれない。
私の両親は二人とも他界していていない。妻のご両親はお二人ともご健在で子供達の事を心配し、よく連絡をくれる。
義母が二人の子供達を引き取って面倒をみると言ってくれていたが、上の子が私と離れたくないと懇願し、私たちは3人で暮らしている。
私自身も子供達と離れたくはない。
父親だけで、どこまで愛情を与えてやれるかは、わからない。
母親がいない事で、辛い思いをするかもしれない。その時に私は何をしてやれるだろうか?
しかし、今はそんな心配をしていても仕方ない
今を精一杯に子供達を愛していこう。妻の分まで……。
食事が終わり、子供達は満腹になった体を休ませる。
私は食器を洗い。洗濯しておいた衣類を干したりして、まだやることがある。
ゆっくりできる時間には子供達は就寝の時間となり、1人パジャマでテレビをつけながら、片手に缶ビールを持ち、寛ぐ。
子供達の部屋は、戸を開けると左右に勉強机があり、奥の真ん中に二段ベッドがある6畳程の部屋で、最近やってきたピカピカの下の子の勉強机が左側においてある。義父母が来年小学生に上がる下の子の為に買ってくれたのだが、届いた初日は嬉しそうにしていたが、翌日にはもう興味をなくしていた!
昆虫図鑑などを棚に置いて、それっきりである。
まだ何も引き出しの中には入っていない。木の匂いが残る机は早くもオブジェと化している。
お絵描きやガチャガチャの人形で遊ぶのも床ですることが多い。
私は、それを注意することはない。放任主義というわけでもないが、本人が床がいいというなら、それぐらい良いだろうと思う。只それだけの事だ。
小学校に上がれば、勉強するのに使うようになるかもしれないし、背も高くなれば、床で何かするより机の方がいいってなるかもしれない。それまで待とう机くん。
上の子には、私たちが帰るまでの間に色々とやってもらっている。
昨夜に干しておいた洗濯物の取り込み、お風呂の湯沸かし、お米も炊いてもらっている。
本当によく頑張ってやってくれている。
小学校低学年の子供にやらせていることに本当に申し訳ないと思っている。
本人は、「楽しいよ」と言ってくれているが、本当はやりたい事を我慢しているんじゃないか?私に気を遣って本音が言えないんじゃないか?と思って、本人に確認してみるも「そんなことないよ。本当に楽しいよ」と、言ってくれる息子の言葉に甘えてしまう。私は頼りない父親だ。
母親がいたら…やらせていたかと考えると……申し訳ない。そして、ありがとう。
私は子供達に助けられている。
いつか、子供達が本気で、やりたいと思えるものが出来た時は、思いっきりやらせてあげたいと強く思う。
妻の偉大さと子供達の雄大さに思い知らされた。今になってつくづくと実感している。
私も自分の部屋に行き、布団を敷き就寝しよう。
今日も疲れた。ぐっすり寝られるだろう。
布団に入り、電気を消す。
時間が0時を回る。
決まって、だいたいこの時間になる頃に小さな足音が聞こえる。
その音は、私の部屋の前で止む。
そして、すぐに私の部屋の戸が開けられる。
可愛らしい枕をぎゅっと大事そうに抱えている。小さな男の子が何も言わずに当たり前のように私の部屋に入ってくる。
私はニコッと笑い、掛け布団を開け広げる。そこにテクテクと小さな足音を鳴らしながら、大事に抱えていた枕を私の大きな枕の横に並べて置き。私の横にくっつくように入ってきて、すっと目を瞑る。
私は広げていた掛け布団を優しく掛ける。
そう、この夜中の訪問者は、私の子。下の息子だ。
二人の子供達は二段ベッドに寝ている。上のベッドに下の子が寝て。下のベッドに上の子が寝ている。
兄を起こさないようにそっと梯子を降り、そっと戸を開け閉めしテクテクと小さな足音を鳴らして、私の所にやってくる。
母親を亡くしてから、だいたい毎日、私の部屋にやってきて眠るようになった。
お葬式では、ケロッとしていたのに何かしら寂しさみたいなものを感じているのかもしれない。
朝になり、私は息子を起こさないように布団から出て。朝の支度を始める。
朝ごはんが出来上がる頃に上の子が起きてくる。
以前までは、下の子が私の部屋で寝てるのを見ては、「また、お父さんの所で寝てるの!」と、言っていた上の子が、最近は当たり前のようになってきたからか何も言わなくなった。
そんな上の子は、下の子を起こしに私の部屋へ
上の子は面倒見がいい。下の子の保育園の準備をしてくれる。
私もスーツに着替え。3人そろって朝食を取る。
食事を終え、食器を洗い。出かける準備が整った3人は、並んで仏壇の前に正座して、妻(母)に手を合わせ。
今日も3人一緒に「「いってきます。」」と、言い。出かけて行く。
夜中の訪問者 パープルジャンパー @o-murasaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます