第82話 待ちあわせ

 欧風のシュガーポットは古びれた鉄製だった。砂糖を軽く1杯さらりと落とす。カップは飲み口が厚みのある重みのある器で500円のブレンドコーヒーとしては妥当な品格を感じさせる器である。


  平日の正午周辺の時間帯に、ジャズの流れる洒落た喫茶店で、こんなのんびりとコーヒーを飲んでいる俺は贅沢だ、そんな風に思う。


 時計の針は、朝比奈美幸との約束の時間の11時を回っていた。

 ラインしてみる。

 《喫茶店着いて先にコーヒー飲んでるけど。いまどこ?》


 既読はつかない。「う〜ん…」僕は少し唸ると何度めかの熱いコーヒーを口元に運ぶ。コーヒーがやや胃にしみる。


 遅れるってライン1つが出来ないのかな…そんな思いになる。しかしだ、こんな時こそ寛大な大人の優しさを示すべき場面に違いない、俺はせっかちに苛立つ自分の気持ちを戒めるのである。


 30代半ばと思われるエプロンのような紺色のワンピースを来た女性店員が何かふわふわと視線の先を通り過ぎてゆく。


 あの落ち着いた顔立ち、風貌は既婚者で2人の子持ちと言ったところだろう、店の奥の厨房にいる年配者に雰囲気が似ている。

 多分、娘さんが母親の喫茶店を手伝っているといったところだろうか、急に想像力を膨らませたかと思うと答え合わせをしたい衝動に駆られてきた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る