第104話 配信 アップデートの通知を受けて


「だって、みんな」


 お知らせを一通り読み終えた俺たちは、ネイカの一言で現実へと引き戻された。


「とりあえず十月二十…………三日後かな?のアプデは細かい調整と竜の試練とダンジョンっぽいね」

「ダンジョンって俺たちも行ったことなかったよな」

「うん。まあ行ってもよかったんだけど…………正直そこまで美味しくなかったから後回しに…………」


『www』

『わかるぞ』

『ほとんどのプレイヤーから認知されていないようです(血涙)』


 ネイカの返答と共に、コメント欄でも弄られるダンジョンの実態。

 とはいえ、いきなりそんな旨味もないコンテンツを作るのかと疑問に思いその旨を聞いてみると、ネイカはなんとも言えない表情で答えを語り始めた。


「いやー、まあ不味いってことはないんだよ?ダンジョンにはいろんなモンスターが居たり宝箱が用意されてたりして、専用のボスもいるんだったっけな?それで実績とかも簡単に達成できるから、素材を集めつつSPも集められて宝箱のレア報酬も狙えるって感じなんだよね。

 でもまあ、正直前者二つは普通にまだ行ったことない街に行けば同じ話だし、とにかくモンスターが多いから事故ると平気でデスしちゃいそうな怖さもあるんだよね。今のところはみんな安全志向でやってるから、ちょっと避けられてるっていうか…………」

「なるほどな。まあでも物置小屋買ってデスの重みを軽減できればありってくらいなのか?」

「それでもデスすると全部パーだからね。ちょっと弱めのダンジョン狙うってなると報酬が美味しいってところがあんま魅力的じゃなくなっちゃうし、うーん…………」


『専用素材次第だな』

『通常報酬増えるならめっちゃ美味くない?』

『よほど自信ないときつい』


 俺はネイカの敷いたレールを歩いてきただけなので、ダンジョンの実情までは把握していなかった。難しいと言ってもネイカの実力があれば言ってもよさそうな気がするのだが、やはり俺がいるから遠慮していたのだろうか。それとも、素直にネイカでも恐れるレベルの物量ということなのかもしれない。一人ではやれることにも限界があるというのも事実だ。


「でもまあ、流石にアプデ来るなら行ってみるかな。ていうかアプデ来る前に一回行こう。そうじゃないと比較できないし、どうせ反乱軍との戦いでデスするだろうからね」


『ネタにもなるしな』

『再生数稼ぎに余念がない』

『柱助かる』


 ネイカの言う通り、俺たちには今『デスの恐怖』というものは少ない。どうせ近いうちにデスすることになるであろうという言い訳があるからだ。今はキャビーから話を聞いたばかりで物置小屋の準備や所持金の浪費は済んでいないが、それも近いうちにしておくことになる。そうしたら、ダンジョンに突撃してデスしても失うものは装備くらいなものだ。


「んーと、一旦帝都を目指すって話だから、ここから物置小屋を…………一旦アールの街でいいかな、定期的に戻ることにはなりそうだし。アールの街でちょっと大きめの物置小屋を買って、装備纏めて持ち歩くわけにはいかないから、近くのダンジョンに行ってからまたアールの街に戻って、そこから帝都って感じかな?それで帝都でまた小さめの物置小屋を借りよう」


『いいね』

『アールの街近くにダンジョンあったっけ?』

『間に合うか?』

『そういや帝都っていつ集まればいいの?』


「アーシーからの連絡待ちかな?今頃お偉いさんで会議してるんじゃない?」


 キャビーの話では、返事は今日の朝までということだった。ということはつまり、ネイカの言葉通り今頃反乱軍をどうするかという会議が行われているのだろう。予定通りにいけばそこでアーシーが名乗り出て、俺たちと共に鎮圧に動くということになる。

 ネイカは今後の話を一度そこで区切ると、再びアップデートの話に戻った。


「それとあと、『幼竜の試練』…………ね」


『www』

『煽られてて笑った』

『強すぎる?貴方達が弱いんですよ^^』


 竜の試練の話になり、再び盛り上がるコメント欄。

 俺は詳しくは知らないのだが、コメントの雰囲気から察するに、どこぞの配信者が30レベル付近のプレイヤーを集め竜の試練に挑んだところ大敗し、運営に抗議するなどと言っていたようだ。どうやら、それなりに荒れていたらしい。色んな意味で。


「まーあの人たちのアーカイブは私も見たけど、正直練度は低かったよね。個人個人でって意味でも、パーティー単位でって意味でも。即席のパーティーだったしある程度しょうがないところはあるけど。それにしても気になるのは、運営が知力もどうこうとか言ってるところだよねー」

「あー、あれはどういう意味なんだろうな?何か事前知識が必要とか?」

「MMOの定番で言うなら、街の人に話を聞いたりしたりして竜の試練に関する情報を集めれば、相手の弱点とか攻略法が予想できるような情報が手に入るとか?」

「未知である点が多いって言い回しも気になるよな。竜の試練には何か隠された特殊な仕様でもあるのか?」

「あー、それもありそう…………とにかく、この話は実装を待つしかなさそうだね。竜爺がいるっていうニューベック王国の方にはまだ行けそうにないし」


『そうだな』

『俺らにはダンジョンの方だな』

『竜の試練は今のトップ層の関心の的でもあるし、すぐに情報集まるだろ』


 そんなわけで、俺たちは竜の試練の話を後回しにダンジョンの方に注視していくということで話をまとめた。ひとまずは、アールの街周辺のダンジョンに目星をつけながらアールの街に戻るところからだ。

 それと、今日はネイカが協力を求めた姫宮イルと天音コロという人との顔合わせも配信上で予定されている。昨日に続き今日も…………そして今日以降も、今後はしばらく忙しくなるのだろうなという予感がする一日の開幕なのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る