第102話 配信 突然の通知
結果的に言うと、俺が飛ばされている間に駆けつけてきた近距離攻撃組によってジャイアントタイラントワームのヘイトが無事に移行されたので、誰もデスすることはなく無事に体勢を立て直すことには成功した。
遠距離攻撃組もヘイトが移らない程度に攻撃を再開し、ジャイアントタイラントワームのHPが再度勢いよく削れ始める。
そんな中で、俺は先程ジャイアントタイラントワームがモブを再召喚した時のことを思い返していた。
(あの動き…………似てるよな)
ジャイアントタイラントワームがモブを召喚する時の動きに、俺は強い違和感を覚えた。
その動きというのは、頭を回しながら叫ぶような動きだ。その叫びに反応してモブが湧いてくるのだろうが、ミミズが叫ぶというのは如何なものだろうか。
そしてそれと同時に、俺はあの動きに見覚えがあった。どこぞの狼型フィールドボスがモブを召喚する動きと非常に似ているのだ。もしかすると、あれはフィールドボスがモブを召喚するスキルを発動させる時に行われるモーションなのかもしれない。だとすると、それを妨害することでモブの召喚を止めることもできる可能性があるということだ。
しかし、その考察が今日活かされることはないだろう。なぜならジャイアントタイラントワ―ムのHPはもう一割ほどとなっており、このまま押し切るか、最終形態が残っているかというところまで来ているからだ。
「みんな最終形態に警戒!耐久に不安のある人は退避してていいよ!」
『結局こいつも三形態か?』
『そういや一段階目終わるのちょっと早かったよな』
様々な憶測が飛び交う。
すっかり忘れていたが、たしかに第二形態に移行するのは少し早かった。しかし、それを考えると逆に第三形態になるのも少し早めになるのではという疑問と、既にHPが一割ほどまで来ているためそんなことはなかったという結果だ。
そして、ネイカの指示により数人の近距離攻撃組がジャイアントタイラントワームから離れたところでHPゲージが残り一割を示す赤色表示となり──────何も起こらなかった。
『あれ』
『来ないな』
ジャイアントタイラントワームに何も変化がなければネイカも特に指示を出すべきことはなく、コメント欄だけがざわつく。
相変わらず土埃だけはどんどん溜まっていくが、このHPの削れる速度を考えると、何も見えなくなるほど溜まるまでには撃破できるだろう。俺もメルを最後のラッシュに加担させ、遠距離攻撃組もヘイトが移れることを恐れずにフルアタックで攻める。
すると、警戒していた俺たちを馬鹿にするかのようにジャイアントタイラントワームはそのHPを無くしてボス部屋から姿を消したのだった。
「えっと…………終わりだよね?」
『たぶん』
『結局何だったんだ?』
ジャイアントタイラントワームは確実に撃破エフェクトを出したというのに、どこか戦いが終わったということに確信を持てない俺たち。しかしそんなことは杞憂だったようで、すぐさま待機エリアへと戻された俺たちは、スキルテイカーの選択会議時間を始めさせられた。
しかし、会議と言っても心当たりのある人の言葉を待つだけだ。誰も心当たりがなければ、発動したタイミングから相手のスキルテイカーがどの組にいたかを割り出し、そのチームの中でその役割の人の中から適当に一人選ぶしかない。本来の知り合い同士で集まるようなギルドならば戦闘中に疑いあったりと盛り上がる要素もあるのだろう。しかし、ほとんど初対面の人同士でやることになる俺たちにとっては、どちらかというとネイカと一緒にボスに挑めるという話であり、こちらのスキルテイカ―を探す方は少し空気が重くなりがちとなってしまっていた。
とはいえ、俺たちに都合のいいイベントが来るとは限らないというのは当然の話だ。今回のイベントによる運営の狙いを考えれば、仕方のない話だろう。
そんなこんなで本日のイベントも無事に終わり、感想戦へと突入する。
正直今回の戦いには疑問点や反省点も多く、コメント欄も昨日までと比べると一際賑わっていた。
「ちょっと第一形態も第二形態もゴリ押しすぎたね。第一形態なんて突き上げ以外の動き見てないし」
「第一形態は遠距離が苦労して、第二形態は近距離が苦労するって感じか。そういや第三形態もありそうな感じだったのになかったな」
『第一六割までなら三割くらいから第三入ってもおかしくないよな』
『何か第三に入るためのトリガーがあってたまたま防いでたとか?』
『そういやモブ第二弾の時ってボスのHPどんなもんだったっけ』
コメント欄を盛り上げているコメントの多くは、やはり第三形態がなかったことに対する話だった。
モブの二回目が第三形態だったのではというコメントもあるが、モブの二回目が湧いたタイミングでは誰もジャイアントタイラントワームに攻撃をしていなかったし、あれはおそらくモブが倒されきったから補充されたというだけだろう。
何かのトリガーを防いでいたというのは、あり得る話だ。例えばあのモブはタンク組だけでも処理できるものだったし、何度かモブを処理すると第三形態に移行するというような話でもあり得なくはない。とはいえ、それだと意図的に防ぐことができるし微妙な気もするが。
「まー明日も編成次第で戦い方変えていかなきゃだし、第一はともかく第二だよね。土埃もヤバいけど『突風』で処理するのも誰か事故りそう」
「そういや何人か飛ばされてたな。あれはすまん」
『まあナイスだったでしょあれは』
『しゃーない』
『飛ばされたやつが悪い』
最後のコメントはともかく、飛ばされた人に関してはある程度仕方のない犠牲だったとは俺も思っている。いや、事前に俺が声を掛ければよかっただけの話かもしれないが。
「ていうか第一の方が問題じゃないのか?ほとんど動き見れてないわけだし」
「いやー、でもあれって遠距離ゴリ押しが正解っぽくない?正攻法ではなさそうだけど、多分近距離で頑張ってもまた土埃が酷くなるだけだろうし、潜らせておいた方が戦場への被害が少なそう」
『ジャイタン「聞いてない」』
『絶対に想定されてないよな』
『ゴリ押しすぎて笑った』
確かに言われてみれば、第一形態も土埃が厄介になってくる可能性は大いにある。序盤にタンク組で少し様子を見た時には直感的に「近距離は正攻法じゃなさそう」と感じたわけだし、遠距離ゴリ押しで何とかなるならそれで大丈夫か。
「んー、第二形態のあの土埃とどう向き合っていくか…………でも、今回のやり方で第三形態へとトリガーを偶然防げてるんだとしたら、残り二日も同じように戦った方が安定しそうではあるよね」
「たしかになあ…………」
『デスするよりはな』
『今回のイベントは安定攻略でいい』
リスナー的には代わり映えのない戦いで退屈にもなりそうだが、やはりリスナーが参加しているという状況も相まって、リスナーたちにも安定攻略の方が好まれている雰囲気だった。
「まあまた明日になって…………ん?」
「お」
『?』
『え』
『お』
なんて話をしている間に、突然運営からの通知が送られてきた。
それは全プレイヤーへと向けたもので、タイトルは『次回のアップデートについて』というものだった。
「アップデートって…………早くない?」
「まだリリースされて二週間ちょいだよな?」
『そんなバランス悪かったっけ?』
『コンテンツの追加か?』
『まあところどころ荒れてはいるが』
本来ならアップデートと聞くと期待が高まるものだが、突然の状況すぎてむしろ不安が募る。俺たちはまだレベリングとSP集めくらいしかまともにしてないので不満はないが、他のコンテンツで何か問題でも起きたのだろうか。手を打つのが早いのはいいことでもあるが、弄られすぎてもプレイヤーにとっては不安材料となるというものだ。
俺たちはそんな期待と不安が混ざったような面持ちの中、その通知を開くのだった。
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