第76話 配信 魔法獣探し
イベント開始から三日。無事に今日の分のイベント配信を終えた俺たちは、魔法獣を探す回と銘打って通常配信を行っていた。
「それにしても遠くまで来たねー。この辺はもうマルナ王国なんだっけ?」
「さっきの森からマルナ領なんじゃなかったか?」
『そう』
『アリーの森な』
『この辺に目ぼしいモンスターはいるの?』
「目ぼしいモンスターな……ぶっちゃけ魔法獣の情報ってまだほとんどないから目星とかつけられないんだよなあ」
先日サポート系のスキルの情報はまだ少ないという話をしたが、魔法獣に至ってはゼロと言っても過言ではない。むしろ、俺が先駆者というやつになってしまっている状況だ。
というのも、魔法獣のシステムが無駄に複雑になっていることが原因である。例えばスライムを解析すればスライムが手に入るというシステムならわかりやすかったのだが、なぜかSFOではそうなっていないのだ。もちろん基本的にはある程度似た系統の魔法獣が手に入るが、稀に全く異なる何の関連性もない魔法獣が手に入ったりするのだ。その例といえば、メルがそうだろう。
メルといえば、メルの解析元であるシルバースライムというのがどうにもレアモンスターだそうで、獲得経験値が多いモブなんだそうだ。そのことを知った俺たちが「レアモンスターを解析すればレア魔法獣が手に入るのでは?」なんて安直な推論を立てて実験した結果、そんなことは全くなかったという話は恥ずかしいので割愛させてもらおう。
「まあ、その代わりこの辺のモンスターの情報はばっちりだ。それに昨日例のスキルもゲットしたから、そっちも少し楽しみだしな」
『お』
『兄、遂に実践投入』
『しっかり配信外であのクエスト進めてたんだなw』
例のスキル。あのクエスト。それらを説明するには、数日前に遡る必要がある───
SFOでの初イベント『スキルテイカーを探せ』が始まる前日、SFO界隈は全く盛り上がらなかったが、俺だけが盛り上がったことが発見された。それは『レベルアタック』というスキルの解放条件で、レベルアタックというのは、自分のレベルに応じた固定ダメージの攻撃をするというスキルだ。
固定ダメージ系のスキルは他にもいくつか発見されていたが、このスキルには他の固定ダメージ系スキルにはない魅力的な点があった。それはもちろんダメージ量がレベル依存というところで、これはどんなスキルにポイントを割り振っていたとしても出せるダメージが変わらないということだ。
例えば他の固定ダメージ系スキル……『パワーパンチ』なんかだと、物理攻撃力依存で固定ダメージが決まる。なので、物理攻撃力のパッシブスキルにポイントを割り振っている人ならより多くのダメージが出せるというわけだ。この場合俺だと、もちろんそんなパッシブスキルには一切ポイントを振っていないので低ダメージになってしまう。
他にも様々なステータスに依存した固定ダメージスキルはあったのだが、どのパッシブスキルにもポイントを割り振っていない俺には大したダメージが出せないスキルだったのだ。
ところが、今回発見されたレベルアタックはそんなパッシブスキルに火力を左右されるようなやわなスキルではない。無論物理攻撃力を高めている人なら、レベルアタックよりもパワーパンチの方がいいし、他のステータスを高めている人もそれに該当するスキルでいいので「誰が使うんだよw」なんてネットでは笑われていたが…………「俺が使うんだよ!」と言い返してやりたい気分だ。
そんなわけでネット上の笑いものとなっていたレベルアタックだが、その理由は他にもあった。それは、解放条件がやたらとめんどくさくて、クエストなんて揶揄されるほどのものだったのだ。
何でもこのスキルはクルド帝国南東部にある村の英雄フォスカーという人が愛用していたスキルらしく、その村にあるフォスカー像にあれやこれやと物資を納品すると解放されるというスキルだったのだ。しかもその物資というのは、「この村が心配で……」なんて言ってフォスカー像の上で村を見守っているフォスカーの幽霊が逐一指定してくるもので、毎回要求物が変わるという面倒ものだった。
しかしあのフォスカーの幽霊は同じことしか喋らないただのNPCだったので、おそらく従来の『誰もが受けられるクエスト』というやつは、そういったこちらの世界で生きているNPCには見えないという設定の、ただのNPCから受けられるということなのだろう。
ちなみに同じく完全に攻撃手段を持たないアイリに聞いてみたところ、アイリはこのスキルを取る予定はないと言っていた。今まで自力の攻撃手段なしでやってきた俺だからこそ言えるが、彼女はまさしく『本物』というやつだろう。
───というわけで、昨日俺は配信外でセコセコとフォスカー像に物を運んでいたのだ。元々最近の配信はそのためにクルド帝国を南東に移動しながらのものであったので、リスナーもわかっていただろう。そして今マルナ王国の方まで足を延ばしているのも、そのついでというやつだ。
「まあ固定ダメージなんてどうせ大したダメージは出ないから、自分で戦いながら魔法獣に指示を出すっていうのの練習くらいにしかならないだろうけどな」
『ないよりはマシ』
『スキル使った時の感覚とかも大事だしな』
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