第14話 配信 モンスター解析


「お兄ちゃん大丈夫?」

「あ、ああ……平気だ」


『こけ方全一』

『コントみたいなこけ方だったなw』

『ネイカちゃん優しい』


 ネイカが、勢いよくズッコケたまま地面に座り込んでいた俺を心配するように近寄ってきた。


「ちゃんと見てから動かないとああなっちゃうよー」

「そうだな。痛いほどわかったよ」


 ネイカと俺の違いは何か。

 バックラーの扱いだけで言うなら、ネイカはしっかり相手を引き寄せてからバックラーを構えていた。それに対して俺は、相手が走り出したのを見た時点ですでにバックラーを構えてしまっていたのだ。

 車をイメージしていたのが悪かったのだろうか。たしかに相手からしてみれば、バックラーを構えられたらそのまま馬鹿みたいに突っ込むわけがない。


「とりあえずまた倒しちゃったけど、次はどうする?」

「任せるよ。俺は解析の機会を窺うのに専念する」

「おっけー」


『まあ経験の差だな』

『がんばれー』

『派手に転んでたけど痛くないの?』


「いや、痛くはなかったな」


 それに、もちろんダメージも受けていない。

 SFOではゲームの設定で痛覚が軽減されているが、どうやら斬られたり殴られたりの時だけではなく全ての場合に適応されているようだ。少し違和感はあったが、痛くないならありがたい。

 尤も、これに慣れてしまうと現実に支障をきたしそうだが。



 それから十分ほどかけて再びはぐれファイウルフを発見した俺たちは、今度こそとファイウルフの解析を試みていた。


「……ダメだな。解析不能って出てきた」

「ありゃー。それじゃあ倒しちゃうね」


 HPゲージを少しだけ残してファイウルフを抑えていたネイカが、その首にスラッシュを叩きこむ。すると次の瞬間、俺たちの脳内にファンファーレが響いてきた。


「お」

「レベルアップだ」


『やっとか』

『きたああああ』

『やったああああ』


 帝国周辺のモンスターを三体倒してレベルが1から2に。これは、序盤の方で狩りをしている人たちはなかなかに苦労しているのではないだろうか。


「それじゃあこの調子でどんどんいこっか!」

「はいよ」


 それから俺たちは、アールの街から南下していく方向へと足を進めていったのだった。





 それから数時間。もはや図鑑埋めやらレベリングをしているんじゃないかと錯覚するほど解析に失敗していると、不意にその時はやってきた。


「『モンスター解析』……んお?」

「……あ」


『え』

『お?』

『きた?』


 どうせまた失敗だろうなんて思いつつモンスター解析のスキルを発動させた瞬間、ネイカが抑え込んでいたシルバースノウスという狐型モンスターが空中に溶けるようにして消えていった。


「成功!?成功だよね!?」


 ネイカが期待の眼差しを向けてくる。

 すかさずスキル一覧を確認すると、一つのスキルがアンロックされていた。そのスキルの名は……


「『魔法獣・フォクシード』……成功だ!」

「よしっ!」


『ナイス!!』

『狐っぽい名前』

『ようやくか』


 フォクシード……シルバースノウスを解析して得られたスキルということに加えて、名前的にも狐の魔法獣で間違いないだろう。


「やっとここまで来れたかー。っと、とりあえず習得しなきゃだよね」

「ここからだと……アールの街より雪の村の方が近いか」

「そうだね。そっちにしよう」


 雪の村というのは、その名の通り雪原地帯にある村だ。「雪の村」というのもただの通称ではなく、正式な名前である。無論、そこも帝国領内だ。

 アールの街を南下してきた俺たちはそのまま雪の村がある雪原地帯までやってきており、モンスターを色々探し回っているうちにマッピングもほとんど完了していた。モンスターのレベルもアールの街周辺よりは高かったが、レベルの上がったネイカの相手ではないようだった。というか、未だにネイカが攻撃を受けたところは見ていない気がする。

 ちなみに、このシルバースノウスを見つけるまでには実に二十種類以上のモンスターに解析をかけており、既に解析を済ませていたモンスターでも『はぐれ』を見つけ次第逐一倒していた俺たちのレベルは7まで上がっていた。


「それじゃあ雪の村目指して───ん?」


『?』

『なんかあった?』


 何かに気づいたように、ジッととある木の根元を見つめるネイカ。そんなネイカの視線の先には、白銀色のぷよぷよとした物体───シルバースライムがいた。


「ここのスライムってまだ倒してないよね?」

「ああ、初めてのはず」

「せっかくだしやってく?」

「……そうだな」


 これまでに俺たちが倒したスライム型モンスターは、最初のスライムと帝国周辺にいたレッドスライムだ。

 どちらも移動速度が極めて遅いという特徴は一致していたが、レッドスライムはファイアーボールを使ってくる厄介な相手だった。おそらく、このシルバースライムも同じ感じだろう。


 雪の上では忍び寄るというのも一苦労な話で、どうしても足が雪にのめり込む音が鳴ってしまう。ネイカが奇襲を仕掛けようと忍び寄ろうとしたが、その音に気づいたシルバースライムがこちらを見ながらぷるぷると煽るように左右に揺れた。


「……『スラッ──!?」


 ネイカがそんなシルバースライムにスラッシュを打ち込もうとした時、シルバースライムは予想だにしない速さでネイカへと突っ込んできた。


「っ!『シールドバッシュ』!」


『うおおおお』

『よく反応した』

『うめえ』


 SFOでは、一度発動したスキルはキャンセルすることができない。

 ネイカは既に発動させてしまっているスラッシュを諦めると、若干無理な体勢からもシールドバッシュでシルバースライムを叩き落した。


「……!『モンスター解析』!」


 雪の村周辺のモンスターは、平均レベルが15ほどだ。

 いくらネイカが上手いとはいえ、数値を超えることはできない。今まではスラッシュとシールドバッシュを何回も叩き込むことで削りきっていたが、シルバースライムはなぜか今のシールドバッシュ一発でHPがほとんどなくなっていた。

 それに気づいた俺が半ば条件反射のようにモンスター解析を発動させると、シルバースライムは先程のシルバースノウスと同じようにして空中へと消えていったのだった。


「……え」

「えー……」


『www』

『w』

『そんなことある?』


 こういう時何と言えばいいのだろうか。物欲センサーというものは、確かに存在しているらしい。


「……まあ、いいんだけどな」

「うん、嬉しいよね。二匹目ゲットだし」


『うん』

『ここ解析スポットだな』

『レッドよりこっちの方がレベル高いのにな』


 解析の基準がどうなっているのかは不明だが、できたものはできたで喜んでおこう。

 とはいえこの微妙な空気はどこかに残したまま、俺たちは改めて雪の村へと向けて足を進めていったのだった。

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