第12話 配信 初戦闘


「それじゃあ再開するよー」


『お』

『待ってた』


 あれから一旦飲食等の小休憩を挟んだ後、俺たちは再びSFOの世界へとダイブしていた。


「まずはモンスターの解析からだね!またしばらくはフィールド探索かな。それじゃあ行くよー」


 ネイカは開幕の挨拶も数秒で済ませ、一秒でも惜しいとばかりにそそくさと街の外へと足を進めていった。

 そんなネイカを追って俺もアールの街を後にする。アールの街周辺のフィールドにはちらほらと狩りをしているプレイヤーがいたが、皆4.5人のパーティーで狩りをしているようだった。


「二人で大丈夫なのか?これ……」

「どうだろ。でも装備は他の人よりいいはずだし、何より死んでも失うものがないからいいんじゃない?」

「……借りた装備はどうなるんだ?」

「また借りに行くとか……?」

「うわ、気まずいなそれ」


『むしろ死ねない』

『討伐隊の装備全部巻き上げよう』

『ブラックリスト入るぞw』


 俺たちが借りることのできた装備は初心者シリーズではなく中級ショートソードなどの中級シリーズで、性能もシンプルに初心者シリーズの強化版となっていた。

 それだけである程度周りにアドバンテージは取れているが、その分アイテムはなしだ。

 それに、周囲を見る限りただの寄せ集めでパーティーを組んでいるというよりはきちんと役割分担をしてそれぞれのロールをこなしていて、れっきとしたパーティープレイをしているように見える。

 それを加味すると、俺たちの力は物足りないだろう。


「もちろんまずは孤立してるモンスターを狙うよ。私はそれなりに慣れてるから大丈夫だと思うけど……お兄ちゃんは慎重にね?」

「どうせダメージも与えられないしな。狙われたらガードするくらいの気持ちでやるよ」


 そもそも自力で戦う気すらないのだが。


 などと会話をしているうちにネイカがターゲットを見つけたようで、俺にこっそりと耳打ちをしてきた。


「お兄ちゃん、あそこにいるファイウルフに仕掛けるよ」


 ネイカが指差す先には、こちらに背を向けた中型の狼型モンスター──ファイウルフがいた。

 耳打ちだけするとネイカは俺の返事も待たずにファイウルフへと近づいていき、ある程度まで距離を詰めると一気に駈け出した。


「───『スラッシュ』!」


 ネイカが放った一撃はファイウルフが反応しようとした直前にヒットし、俺たちの半分ほどの体躯を誇るファイウルフを小さく後ろに突き飛ばした。


「おー」


『いいね』

『さすが』

『お兄さん見てるだけw』

『これがノックバックか』


 俺がモンスター解析を取得していた頃にネイカもスキルの強化を行っていたようで、スラッシュのスキルレベルを3まで上げたことでノックバックの追加効果を得ていたそうだ。

 先程の突き飛ばしはその追加効果というわけだろう。たしかに、斜め上から叩きつけるように攻撃したにしてはおかしな方向に突き飛んでいる。


 と、俺が遠距離からそんな分析をしている内にも戦況は動いており、体勢を立て直したファイウルフがネイカへと向かって突っ込んでいった。


「……!『シールドバッシュ』!」


 ファイウルフの攻撃のタイミングをじっと窺っていたネイカが、ファイウルフに攻撃される寸前でシールドバッシュを発動させた。シールドバッシュはその名の通り、シールドを突き出す攻撃だ。


「よし!うまくいった!」


『ナイス!』

『ジャスガみたいなもん?』

『押し切れ!!!』


 突っ込んできた相手の勢いまで利用したシールバッシュは見事にファイウルフにさく裂し、大きく突き飛ばした。

 さらに、それだけではなくスタン状態まで付与したようで、ファイウルフの頭上では星が回りだしていた。


「『スラッシュ』!『スラッシュ』!」


 ファイウルフがスタンしている間にネイカがスラッシュを繰り返し叩き込む。その連撃でHPが削り切られたファイウルフは、ポリゴンと化し消えていった。


「……こんなもんかー」


『この辺は余裕そうだな』

『一方的やんけ』

『前回もある意味一方的だったけどな』


「モブとのタイマンではそうそうやられないでしょー」


 余裕そうに呟くネイカ。ネイカの戦闘を傍から見ていると簡単そうにやってのけているが、実際そんなに簡単に行くものなのだろうか?


「あ、そういえば普通に倒しちゃったじゃん!解析しないといけなかったのに!」

「あ」


『あ』

『あ』

『そういえば』


「お兄ちゃんもみんなも忘れてるし!」


 それだけネイカの戦闘に見入っていたということだろうか。実際ネイカの動きは流れるように無駄がなく、綺麗だった。

 つまり、それだけ上手いということだ。


「ネイカ、次はちょっと俺にやらせてくれないか。って言っても身を守ることしかできんが」

「お、やる気になった?」


 あれだけのものを目の前で見せられたら、嫌でもその気になってしまう。スポーツの試合を見て、俺なら──と考えてしまうようなものだ。


「まあ、ちょっとだけな」

「ふふ、戦闘見せた甲斐あった感じ?」

「……そんなんじゃねえよ」


『ツンデレ』

『ツンデレ助かる』

『ちょうど不足してた』


 ニヤニヤするネイカとコメントを見て、照れくささにどんな顔をしていいかわからなくなってしまう。

 それを誤魔化すように、俺は孤立しているモンスターの捜索を始めた。






 それから数分して、俺はようやく孤立しているモンスターを見つけることができた。そのモンスターは先程と同じで、ファイウルフだ。


「やっといたか。狩りとしてはなかなか効率悪そうだな」

「うん。やっぱりちゃんとパーティー組んだ方がいいね」

「まあ、頭数なら魔法獣で誤魔化せるかもしれないが」

「たしかに」


『魔法獣が一匹足止めしてくれればその分だけ囲まれても平気だしな』

『ダンジョンとか行ったらもっと密になるぞ』

『いちいちこれやるのは論外だな』


 そんな会話をしているうちにファイウルフもこちらに気づいたようで、その瞳は俺を捉えていた。


「よし、来い!」

「私は近くで待機しとくね」

「頼む!」


『がんばれー』

『ネイカの兄だし上手そう』


(おいおい、ハードル上げるなよ……っと!)


 コメントに内心で苦笑いしていた間に、油断大敵とばかりにファイウルフがいきなりこちらへと突っ込んできた。その動きは速く、まるで車がこちらに突っ込んできているような感覚だ。

 しかし、その例えが出てくるということは見慣れているということでもある。実際車が行き交っている光景は日常的に見ているし、その速さには慣れている。


「───ハッ!」


 スキル名でもあればいいのだが、あいにく俺にスキルはない。その代わりに息を吐き出すような叫び声を上げて、バックラーを突きだした。イメージしたのは先程のネイカの『シールドバッシュ』だ。


「ッ!───ラァ!」


 突き出したバックラーとファイウルフがぶつかり合った瞬間、俺の左腕に物凄い衝撃が伝わった。

 痛みを覚えながらも、何とか踏ん張ってその衝撃を突き返す。俺がバックラーを構えた左腕を振り切ると、ファイウルフもそれに合わせて突き飛ばされた。


「ナイスお兄ちゃん!」


『うまい』

『ナイス!』

『いいね』


 その光景に歓喜の声を上げるネイカとリスナーたち。

 しかしファイウルフは喜ぶ間も与えてくれないようで、すぐに態勢を整えると再びこちらへと突っ込んできた。


「……やっぱりダメージは0か」


 俺は少し後ろにステップして、ファイウルフから距離をとる。その際に相手のHPゲージを確認してみたが、やはりダメージは受けていないようだった。

 そして、距離をとった俺をさらに追い詰めるようにファイウルフが突っ込んでくる。俺は再びその勢いに合わせてバックラーを突き出した。


「そんな動きじゃ……ッ!?」


 てっきり衝撃が来るものだと思って突き出したバックラーには、何の衝撃も襲ってこなかった。

 そのまま勢いを抑えることができなかった俺は、前方に体勢を崩す。倒れざまに俺の視界に入ってきたのは、直前で右に逸れていたファイウルフの姿だった。


(フェイントかよ!モンスターのくせに……!)


 倒れていく俺をめがけて、再びファイウルフが突っ込んでくる。

 それを見た俺は、咄嗟にショートソードを投げつけた。それは焦って半ばやけくそな行動だったが、結果的には突っ込んできたファイウルフの顔に直撃して相手を怯ませることに成功したのだった。


「お兄ちゃん!……『スラッシュ』!」


 そんな俺を見て、ネイカが助太刀に入ってくる。

 そんなネイカのスキルをくらったファイウルフは、そのままターゲットをネイカへと切り替えた。そして、そのままネイカは先程のようにあっさりとファイウルフを倒してしまったのだった。


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