第5話 配信 初めての探索
ガズル村はただの辺境の村といった感じで、本来なら特に用もないところだ。
噴水広場に近いこともあり、出現するモンスターのレベルも低い。そもそもアクションに重きを置くこのゲームでは、モブ相手ならステータスの格差をひっくり返して勝つことも可能だ。仮にデスしても序盤は大した損害もないので、多少無理なレベリングをする方が効率も良いだろう。
しかし、俺たちの場合は少し事情が違った。
「とりあえず、本格的なレベリングを始める前にお兄ちゃんのスキルを取っておきたいよね」
「すまんな」
「いいって。肩慣らしもしたいし、まずは適当にモンスター探しながら狩っていくのでいい?」
「了解。金は全部アイテムに変えちゃっていいよな?」
「うん。補充に来るのもメンドクサイし」
二人そろって所持金を全て回復アイテムに回す。
装備を整えるという手もあるが、この村で買えるものは大したものでもないだろう。というか、少し露店を覗いた感じだとそもそも装備は買うものではなさそうだった。モンスターからドロップするか、装備を作るスキルもあるので自前で作れということなのだろう。
もはやここまでは他のプレイヤーたちも同じことを考えていたようで、村に入ってから露店を覗き、村を出るところまで全て列と化して流れるように済ませていた。
そして他のプレイヤーたちが帝国へと向けてさらに歩いて行くのを尻目に、俺たちは北へと足を進めた。北を選んだ理由は、ただの気まぐれだ。
「あ、そう言えばついでに配信もしていい?ルート外れたからちょっと需要あるかもしれないし」
「もちろんいいぞ」
二つ返事で了承すると、ネイカは少し立ち止まった後に咳払いをした。
「あー、あー、テステス」
『お』
『やるの?』
『きたあああああああ』
『早いな』
『いいね』
ネイカの発言と共に、俺の視界内にそんなコメントが流れてきた。
これはSFOに限らない話だが、VRのゲームは配信機能が充実している。基本的にはボタン一つで誰でも開始することが可能だし、今の俺のように出演者設定をするとその配信のコメントを表示することも可能だ。
「おっけー。それじゃあ早速なんだけど、今はガズル村から北上してまーす」
『ガズル村ってどこだ』
『いいね』
『どういうルート?』
「あ、そうだね。ガズル村っていうのは帝国方面に目指した時の最初の村だよ」
『???』
『いいね』
『もう最初の村は出たのか』
『何もわからん』
『俺もわからん!雰囲気で楽しめ!』
流れていくコメントを見て思わず苦笑いが漏れる。
一応SFOをプレイ中にも配信を見ることは可能だが、やる気のあるやつは今必死にゲームを進行している最中だろう。つまり、今いる視聴者のほとんどが今はSFOをやっていないか、やっているとしても緩くやっている「ネイカのファン」ということになる。
情報収集という意味で片手間に見ているガチ勢もいるかもしれないが、コメントには顔を出してこないだろう。
「まあ細かいことは置いといて、これからフィールドを探索していくとこだよ!」
ネイカもそれはわかっているようで、視聴者の気を引くようにトーンを上げてそう言った。
『やったー!』
『ネイカちゃんは武器持ってるけど、お兄さんは?』
『いいね』
「あ、紹介がまだだった。こちら巷で話題のお兄ちゃん!お兄ちゃんはまだスキル取ってないから、お兄ちゃんの欲しいスキルを解放するための探索だよー」
「えーと、初めまして……ネイカの兄です」
「お兄ちゃん緊張しすぎ!」
『お兄さんキターーーー』
『帰れ』
『巷(俺ら)』
『いいね』
『彼氏?』
俺の挨拶と共に、コメントが加速した。
賛否は概ね半々といったところだろうか。兄という立場と事前の紹介である程度は受け入れられているようだが、やはりよく思わない人もいるようだ。
というか、さっきからいいねしか言わないやつは誰なんだ……
「挨拶はこれくらいにして、早速探索行ってみよー」
ネイカのその掛け声と共に、俺たちは本格的にフィールドの探索を始めていった。
「こっちの方は森なんだね」
マップには『コレイスの森』と表示されており、鬱蒼とした森だ。
「森と言えばどんなモンスターがいるんだ?」
「んー、多いのはやっぱり昆虫系とか植物系かな?」
俺の質問にネイカが答える。配信のスタイルは基本これで行こうというのが俺たちの方針だ。
そもそも俺もMMOに関しては初心者だし、SFOの知識はあってもMMO全体のセオリーやなんやはあまりわかっていない。つまりこれは視聴者に対する解説でもあり、俺に対する解説でもあるというわけだ。
「昆虫か……」
『芋虫はやめてくれ』
『蜘蛛出たら配信閉じます』
『序盤から昆虫系は来ないだろ。小さい子が泣くぞ』
『たしかに』
『それフラグ』
俺のつぶやきにコメントが反応を示す。
別に俺は昆虫が苦手というわけではないが、昆虫をモチーフにしたモンスターとなると話は別だろう。たとえばリアルの昆虫が倍くらい大きくなったら……それだけで随分と気持ち悪くなる。
昆虫系は嫌だなーなどと思いながら、俺たちは森の中へと足を踏み入れていくのだった。
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