SKILL FIGHT ONLINE
@YA07
序章 SFOサービス開始
第1話 サービス開始
「あと五分か……」
携帯端末に表示された時刻を穴が開くほど見つめながら、俺はそう呟いた。
そんな俺の隣から、クツクツという笑い声が聞こえてくる。
「ふふ。結局めっちゃ楽しみにしてんじゃん、お兄ちゃん」
お兄ちゃんという言葉からわかる通り、そんな茶化しを入れてきたのは妹の寧衣だ。俺たちは新作のVRMMO『SKILL FIGHT ONLINE』(通称SFO)のサービス開始まで残り五分というところで、隣に腰を据えながらサービス開始を待っていた。
「まあ、色々調べてたら案外俺も好きそうだなって」
「お兄ちゃんアクション系のゲームやらないもんね。私もダメ元だったよ」
そう。俺は元々シミュレーションやらコマンドバトルやらの選択肢を選ぶだけでいいゲームが好きで、ヴァーチャルワールドで実際に体を動かして遊ぶVRMMOは守備範囲外のゲームだった。
しかし、SFOへの参戦を決めた我が妹は「せっかくならランカーを目指したい」と張り切り、その話が現在ニー……通常と比べると比較的暇な俺にも回ってきたというわけだ。
妹はヴァーチャルワールド上でのアバターでリアクション取ってゲームを配信することでお金を稼いでいて、ニー……収入がなくなり親から冷たい視線を受けるようになった俺に対して、SFOで協力してくれるなら肩を持ってあげるという話を持ってきた。いくら俺がその手のゲームに興味がないといっても、ゲームが仕事代わりになり、その上こちらは配信の面倒なところを考えなくていいとなれば頷かないという手はないだろう。尤も、肩を持ってくれるというだけで俺にお金が入ってくるわけではないが。
「でも、なんでそんなやる気なの?」
「なんでって、そっちの方がいいだろ?」
「それはそうだけど……」
「まあ、その理由は後でのお楽しみだ」
「はーい」
そんな会話をしているうちに、サービス開始まで残りわずかとなっていた。
俺は妹とキャラ作成し次第ゲーム内にて合流することを確かめ合った後、さっそくVRワールドへとダイブした。そしてどうやらダイブに少し時間を取られている間にSFOのサービスが開始されていたようで、俺は迷わずSFOの世界へと旅立っていったのだった。
【ようこそSKILL FIGHT ONLINEの世界へ】
無機質なアナウンスが脳内に響く。
俺にはそもそも自分でアクションがとれるというコンセプト自体が向いていないので、VRゲーム自体をほとんどやったことがない。こんな風に脳内に響き渡る声も新鮮で、年甲斐もなくウキウキしていた。
【まずは、キャラクリエイトを行って頂きます】
MMOでは定番のキャラクリか。
といっても、ここにあまりこだわりはない。妹は如何に配信活動の時に使っているアバターに寄せられるかと色々試行錯誤するだろうが、俺にはそんなものもなければ『自分』へのこだわりもないからだ。
俺は性別を男性、種族をヒューマンにし、アバターはデフォルトで用意されていたものから身長やら体重をリアルのものに合わせたといった程度で済ませておいた。
【次に、スキルポイントを割り振ってください】
(来た!)
スキルポイント。
スキルというのはSFOのタイトルにも出てきている通りで、このゲームの大きな特徴の一つだ。
この手のゲームではジョブを選択しそれにあったスキルの中からポイントを割り振っていくというのが定番らしいが、SFOでは全く違う。そもそもジョブという概念がなく、さらにはステータスポイントという概念もない。その代わりを全てを担っているのが、このスキルポイントとなっている。
スキルポイントで獲得できるスキルは、大きく二種類に分けられる。一つがアクティブスキルで、もう一つがパッシブスキルだ。
アクティブスキルはそのままプレイヤーが使うことのできるスキルだが、これはジョブが存在しない分すべてのスキルを獲得することが可能である。無論すべてが最初から手に入るわけではなく、スキル獲得の様々な条件を解除する必要はあるが。
そして、パッシブスキルが従来で言うところのステータスポイントの意味合いとなっている。レベルアップすることで増えるステータス量は種族により固定されているが、その分パッシブスキルで個性を出していくということだ。
そして、SFOにおけるスキルの特徴はそれだけではない。スキルポイントの入手の仕方が、レベルアップではなく実績の解除だというところと、事実上アクティブスキル・パッシブスキル共にポイントさえ使えばすべての選択肢から無限に取得が可能だが、それぞれスロット四つしかなく、スキルを取捨選択しなければならないという点だ。
つまり、さっきまでアタッカーだった人が突然ヒーラーになったりということもあるのがこのゲームの最大の特徴だろう。とはいえ、スロットを入れ替えるのは街などのセーフゾーンでなければならず、戦闘中に突然といのは不可能だそうだが。
さて、話を戻すが、初期スキルポイントは10ポイント。俺はこれを……何にも振らなかった。
【それでは最後に名前を入力してください】
(ああ、スルーですか……)
最近のAIは人間と見間違うほどだなんて言われているので、少々アナログな世界に生きていた俺はこのアナウンサーが何かリアクションでもくれないかと期待していたのだが、そんなことはなかった。
「名前は……猫Tでいいか」
その場で思いついた名前を適当に入力する。少々奇抜な上にサービス開始直後でもあり、その名前は誰にも使われていなかったようで、無事にキャラクリエイトが完了した。
【それでは、よい旅を】
アナウンサーが決まり文句のようなものを言うと、俺の視界は徐々にホワイトアウトしていった。
(初めてのMMOか……人と一緒にゲームするのなんていつぶりだろうか)
いつからか一人でゲームする方が気楽だなと思うようになった俺は、ソロでできるゲームにのめり込んでいった。こうして誰かに誘われてゲームをすることも、かなり久しぶりだ。
(なんか童心を思い出すな……)
VRワールドに来てから、年甲斐もなくずっと浮かれてしまっている気がする。だが、これはゲームだ。浮かれてはしゃいだっていいだろう。白い世界に包まれていく中、俺は不敵に口角を上げたのだった。
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