調理その二 突然の退部宣告
ん?
この人、今何と言った?
俺は校長の言ったことが理解できずにいた。
返事も出来ず、押し黙ったままでいると校長が、
「聞こえたかね。男子バスケ部を辞めてもらうと言ってるんだ」
と、
どうやら俺の耳は正常だったようだ。
「あ、あの校長さん。これは一体どういう
またもや全身から冷や汗が流れ出た。
退学とまではいかなかったが、退部宣告だ。辞めるという部分では正解だったようだ。残念ながら。
今まで
「そうだよな。どんな要求にも必ず考えってものが存在するよな」至極当然のことを言う校長。IQが急に低くなったかのようだ。
そして
「お前、家のことは全て専属の使用人に任せっきりだと聞いている」
言われて俺は口を
「それをあまり良しとしない人がいてだなあ…」そう続いた後に校長は煙を吐く。
俺は頭をフル回転させ、その張本人を探し出してみた。
一体誰だと言うのだ。男バスの部員に俺の内情を知ってる奴がいるとか?
もしくは専属メイドの中に同級生のスパイが紛れ込んでいたのか?
いくら直感しても、思い当たる人物は出てこない。
すると校長が、
「これはあくまで知人が言ってたことだ。だから気に病むんじゃねえぞ」
と、念を押してきた。
「は、はあ」
その奇妙な根回しに、俺は
すると校長は大きく息を吸い、口に出した。
「朝の支度に部屋の掃除に登下校、毎食の料理も自分でやらず、全部使用人や運転手にやらせてばっかりだそうだな。確かにお前の学力・身体能力は極めて優秀だ。だがな名門のご
「わ、分かりましたから。もう、その辺にしてもらっていいですか。これ以上言われると心が持ちません」
サングラス強面おじさんからの総当たり攻撃に、俺の心がバグりそうになった。
「いかんいかん、少々度が過ぎたようだな」
口元をにやついて、校長は軽く咳ばらいをした。
随分
「ま、あくまで知人が言ってたことだからな」
「何ですかその補足」またもやその奇妙な根回しに、俺は
「
そう校長から言われた途端、俺はあることに気付いた。
おそらく奴自身の言葉でないことは本当だ。
そもそも結城家とは無関係であるはずのこのおっさん。ここまで内情を知ってること自体が不自然だ。
担任でもない限り、家庭内の事情にまで首を突っ込むことなんてあり得ない。
そうなると、知人の正体は近親者であると絞られてくる。
もう答えは出ていた。
ここまで俺のことを、とやかく言ってくる奴は世界でたった一人しかいない。
俺は震える口を
「あの、その知人っていうのはもしかして…」
校長はその問いを待っていたかのようにふてぶてしい笑みを含め、
「結城
と、目を
ジジイィィ! やってくれたなおい。
俺は心の中で、そう盛大に叫んでいた。ほんと余計なマネしてくれるな。
「でだ。結城よ。代わりにお前には、ある部に入部するよう嶄造から要求が出ている」
「? ある部っていうのは?」
俺の問いに校長は少し間を開け、こう答えた。
「料理部だ」
予想もしないその返答に、俺は
「り、料理部って、学校の女子達が一斉に何か食い物を作って食べるだけの部ですよね?」
「…お前は何も知らないんだな」
俺のこの質問自体を予想していなかったのか、校長はため息をついて
「じゃあここから教えようか。高校生主体の料理大会が存在するのは知ってるか?」
「いや知らないです。初めて聞きました」
「そうか。本当に何も知らないのか」
今度はどこか諦めたような表情だ。証拠に「これは大変そうだな」と一人呟きながら苦笑いしている。
「説明するか。まず、毎年全国の高校から料理に絶対的な自信を持つ生徒達がこぞって集まる大会がいくつかあるんだ」
校長の説明に、俺は小さく頷いた。
「で、うちの学校はそれらの大会の常連校というわけだ」
…何だか嫌な予感がしてきた。そんな強豪校の部活に俺が放り出されるということは…。
「つまり、その大会に出ろということですか?」
気になった質問を、校長に聞きだしてみる。
「そういうことだ」
案の定その回答は否定ではなく、肯定だった。
またその時の表情は、憎たらしいほどに、にやついていた。
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