あるがままに

シヨゥ

第1話

 あるがままを見る。それが意外とむずかしい。

「そこにあるものを見なさい。なんの疑問も持ってはいけない。ただそこにあると理解しなさい」

 そう言われてぼくは花瓶を見ている。ただそこにあると理解するだけでいい。それなのにあれこれ考えてしまう。なぜこの形なのか。なぜこの模様なのか。なぜここに置かれたのか。などなど見ることに意識を集中することがなかなかむずかしい。

「先生無理です」

 ぼくは音を上げた。

「どうしても花瓶について考えてしまいます」

「そうか。やっぱり君は人間を捨てきれないね」

 先生はそう言ってほほ笑む。

「と、言いますと?」

「考えるというのは生存本能だ。ありもしなことを思い描いて、起きてもいない事件に対応しようとする。人間は動物界の中でも弱いからね。そういうところが長けている」

「なるほど」

「長けているからといって得意でもない。それが人間だ。ありえないほど大きな事件を思い描いて、そんなひとりでは抱えきれないような事件に対応しようと頭を働かせる。そんな経験はないかい?」

「ない、とは言えないですね」

「そうするとどうなる?」

「すごく疲れますし、すごく憂鬱になります」

「それが取り越し苦労。つまり君が直したいという癖だ。あるがままを見る。それができればすべてが解決するんだ」

「なるほど」

「なにごとも練習だ。なにも考えずにただあるものを見る。起きている事柄を見る。一切考えないことから始めよう」

 あるがままを見る。それができるようになったとき僕は変われるのだろうか。

 その時の自分をあるがままに見れるだろうか。少し心配だ。

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あるがままに シヨゥ @Shiyoxu

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