第11話 当然の選択
──状況と選択肢は整理されて疑いようがなかった。
パァン! という破裂音が聞こえて、その方向に駆け出した。すぐに見えたのは、彼女が
端的に、何もかもマズい。
彼女──ハイデマリーは殺されてしまう、下手をすればそのあと俺もやられてしまう。
人はもう呼んだ。けど来るかわからないし来るとしてもすぐには来ない。
俺の背中には
「くそがっ! くそがくそがくそがっ!」
ボロボロの彼女は幾ばくももたない。
だから、まず最初の正解の選択肢。
指笛を鳴らし、小石を投げて、
それは成功する。標的が俺に移る。
とりあえずこれで怒られることはなくなった。やれることを最大限やったのでお付きの義理は果たした。怒られるとしても死んだあとではさすがに俺も怖くない。
近づいてくる二つ牙を見て、次の選択肢はないかなと考えた。
ここで俺が一時的に囮に成れても彼女が助かる可能性は低い。だから、もうちょっと何かをやっておきたいのだけれど。
にしても、怖い。怖すぎる。
すると思いついた。
──俺の力で斬ったり刺したりする必要、なくない?
考え方はそう、刃先を上に向けた包丁に、果物を落とす感じで。ほら、もしかするとうまくいくかもしれないからさ。
◆
突進が、為された。
私がさっき大木を盾にしたときのような轟音はしなかった。
それから
何が、どうなった?
「……ご無事でしたか」
私が立ち尽くしていると、死体の陰からヴィム=シュトラウスがぬっと出てきた。
「……おまえ、何をしたんだ?」
「……あの」
「無事なの?」
「……はい。お嬢さまこそ」
「で、何をしたの」
「そ、その……」
私は言葉を待った。彼に対してはそうすべきだと。
頭をポリポリとかいて、キョロキョロして、顔をぺたぺた触って、ぼそぼそとつぶやき始めた。
「その……あの
「は?」
「ですから、その、説明が悪くて、へへへ……」
こいつは私と目を合わせようとしなかった。
「おまえ、わかってるのか。
「……はい。その、運がよかったです。へへへ」
会話を試みて思った。
違う。
こいつ、笑ってる?
「おい、おまえ、何がそんなに面白いんだ?」
「へ? ……あっ……その、緊張しちゃって、気が抜けて」
何が起こったか、私の方で整理されてきた。
こいつ、
子供の筋力で迎え撃ってとできるわけがない。だから、柄を木に当てて
垂直に立てた
「……その、あの、お嬢様……ご無事でしょうか……?」
「おまえ、頭おかしいんじゃないの」
「……そうかも、しれないです」
「ちなみに私は無事だぜ。くそ痛えけどな。あと口の中は血と土の味がする」
「それは……大変です」
会話が噛み合っているが、テンションが全然合わない。
私はなんだかおかしくなってしまっていた。
なんだなんだ、これは。私は何をしてるんだ。
そしてこいつは、何をしているんだ。
むらむらした怒りが肩透かしになっていた。
「すげえよ、おまえ」
「……へへへ」
私が
「おーおー、ほんとに死んでる」
おそるおそる閉じた瞼を触って、めくる。
毛むくじゃらの膜の向こうにあった目は真っ黒。その奥の瞳は開ききっている。
ふう。
私は飛ばされた鞄と鉈を回収して背負いなおし、全身についた土を一通り払った。
体調と痛みと相談。当然回答は「まだ行ける」。
「ついてこいって言ったら、来るかい」
「……はい」
彼は首を強めにこくこく振った。
私は
「あの、お嬢様」
「なんだい」
「その、あの、目的地とかを言ってもらえると……」
ああそうか。
まあ、連れていくんだから隠すことでもないか。
「……
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