第12話 魔力薔薇
最大の特徴はなぜか魔力を帯びているということで、それゆえに用途は多岐に渡り、加工した粉末は魔力を使用するあらゆる道具の原材料となる。
誰が言ったか、地上にある魔石というのがその価値を表しているだろう。
無加工の状態でもある程度高価なことで有名。一本でも一人の一日の食費には足り、群生地を見つけられれば家族全員が冬を越せるという評判である。
見つける方法はただ一つ。地上でモンスターを発見すること。
モンスターの目撃箇所には
この冒険ごっこはただの探検じゃなくて、歴とした目的があったわけだ。
だけど、それをわかった上で、ちょっと変だな。
自由に使えるお金が欲しいとか? それにしては危険なような。
単に冒険をしたくて、目標を設定しただけなのかな。
「おいヴィム」
「は、ふぁい!」
「山歩きは慣れてんだよね? 足跡追える?」
「は、はい……たぶん。その……足跡だけじゃなくて、猪なら牙で傷つけた幹とかも見ていくと、はい……その、裏取りって言うんですけど」
あれほどの巨体となれば、慣れた人間にはその跡は明確である。
お嬢様は俺のぴったり横について、俺の視線の先を探っているようだった。
「……なるほど。案外わかるもんだな」
さすがお嬢様といったところか、とても賢い。
「ほれ、私の横に着け。間違ってたら言え。そうじゃなかったら注意しろ」
……にしても、ちょっと横暴じゃないだろうか。いいけど。
◆
このヴィム=シュトラウスとかいうチビは案外使えた。
子どもには不相応な刃渡りの
前に立たれると腹が立つので、横並びにさせたけども。
何より、臆する様子がまるでなくて、私に追いつけないということがないのである。
さっきまでのガキどもはなんとか私について来ようとして、それが億劫で、どうにか帰れないかと考えているばかりだった。
対してこいつは、ひたすら無言で私の言う通りに進んでくれている。
「お前、けっこう上手いな。草斬るの」
「……はい」
「シュトラウスの人たちはみんなお前みたいに動けるの?」
「その……男衆は……へへ」
しかし、目を合わせようとしない。自分の作業に集中しているらしい。
話しかけてほしくないのだろうか。
それはそれでいいけども。
もう一人がいると道中はまるで変わった。
考えたこと、感じたことをすぐに共有できる。……いや、友達でもあるまいしそんなことはしないけども、物理的に共有できる状況なわけだ。
隣で聞こえる雑音が遠くから聞こえる音を消してくれる。死角が与えてくる不安感がまるでなくなる。
「心強くなんてないからな!」
「……す、すみません」
森が深まるにつれて足元の落ち葉が増えて、腐葉土が深くなっていった。私の脚でもひざ元まで隠れてしまうくらい沈むから、チビのヴィムは腰にいくんじゃないかってくらい歩きにくそうな中、身軽に誤魔化しながら歩いていた。
そんな中である。
ヴィム=シュトラウスは目算を誤って、ちょっと深くまで足を沈めてしまったらしい。
「……ふっ」
どうにでもしようはあるみたいなのだが、ちょっと手間取っていた。私が助けてやればすぐに抜けられるくらい。
「ほらよ」
手を差し出す。
その手を取っていいか逡巡したらしい挙句、彼は私の手を取る。首を縦にこくこくと振っている。
そうして抜け出して、また二人で進んでいく。
来たことのない世界だった。
時刻はまだ昼のはずで、暗くなることはないのだけれど、木々の隙間がだんだん狭くなるのと同時に日光が遮られて暗くなっていく。
まだ見ぬ場所を開拓していく快感。
だけど世界が広がっていく感じがしなくて、どんどん枝葉の方に、行かなくてもいい狭い場所に向かっていくイメージ。
「
ふと、言った。
「……
「なんでもねえよ」
気が抜けすぎてしまったようだ。
まるで洞窟を進んでいくような気分になっていたのだ。
石筍の代わりに折れた株、滴る水滴の代わりに蔦が垂れて、誘うように入り組んでいく。
私たちには確信が芽生えていたように思う。
目指している先の奥の奥。確かな気配がある。
大海原の孤島の気配みたいに、そこに向かって海底がなだらかになっていくような。
そして見えた、青色。
自然界において目立つ色と言えば赤だけど、不自然な色と言えば青。若さや健康の象徴の緑色の親戚ながら、毒々しくて不健康な青色。
木の並びが規則的だった。
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