エピローグ
「おーおーおー! やったねえ!」
誰もいないはずの聖域に、一人の女性が現れた。
天真爛漫な明るい声。
リタ=ハインケスだ。
ずっと戦いを見守っていたのか、そのうちこうなるとわかっていたのか。
まあやってることは悪趣味だ。
「安心したまえ死にかけのヴィム君! 我々【
「不要です」
立ち上がる。
リタ=ハインケスはやや後ろに引いた。
「えぇ……立てるの?」
「問題ないです」
「さすがの私も頭おかしいんじゃないかと思うよ。
「はい」
「んんー?」
目を覗き込まれる。
「なるほど、動かし続けないと死んでる状態なのか」
多分、正解。
なんだろうな、この人の観察眼は。
「……その、あなたみたいな人でなしに世話になるつもりはありません。協力するつもりも」
「つれないのー」
ぷーっ、とおもちゃを貰えなかった子供みたいに彼女は頬を膨らませた。
そして翻って、俺の方にちゃんと向き直った。
「じゃあ、これからどうするの?」
明るいけど真剣さが伝わる声色。
やはりペースが掴めない。
……そんでもって、この無遠慮な感じが苦手じゃないからタチが悪い。
「このまま次の
「うんうん! それも一つの
俺とは対照的な爽やかな笑顔。
同じ声に呼ばれた者なのに、開き直るか否かでここまで違うか。
リタ=ハインケスは俺の後ろにたったった、と回り込んで、背中をトンと押した。
転送陣の方向だ。
「ほら、行きな! 君が行かなきゃ我々も行けない!」
「……そういうの、大事にするんですか、あなたたちは」
「もちろん! 我々はどこぞの正義気取った阿呆どもより、よっぽど冒険者と
各単語の尾に大量の注釈が付いている気がするが、いいだろう。
どうせ関わるつもりはないし。
初めて第百階層に行く人間になることに関しては、まったくもって吝かではない。
倒れた巨木を歩きながら跨いで、転送陣を目指す。
転送陣の目の前まで来た。
淡く光る幾何学模様。
いざ最初に踏むと思うと緊張する。唾を呑む。
急かしそうなものなのに、このときばかりはリタ=ハインケスは何も言ってこなかった。
趣とか解するのかあの人……うわ、ニコニコ笑顔で見守ってる。逆に腹が立つ。
息を止めて、一気に踏んだ。
視界が切り変わる。
明るさに目がくらむ。
開いていた瞳孔に強い光が差し込む。
続いて感じたのは肌寒さ。
いや、温度差でぼやけているけど過ごしやすいくらいの気候か?
少なくとも
だけど目が慣れれば、そんなことは些事だと思わせる光景がようやく追いついてきた。
山だ。見事に岩々が切り立った独立峰。
何を感じているか、見ているかがすぐにはわからない。
今まで俺が
もはやここは
いや、リタ=ハインケス曰くここは別大陸だったか。
ますます説得力が出てきて嫌になるな。
そして山と言われれば、特別に思い出すことがあった。
このような山の主と言えば相場は決まっている。
地上では人類が長い歴史の中で打ち勝ったことにされている、神にも値する宿敵。
壮大さが直感に訴える。
間違いない、ここはこの世で最強の生物の根城。
手が、震えた。
「……ヒヒッ」
この山には、竜が棲んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます