第81話 うねり
街の中央に行くということは、祭りの真ん中に行くということ。
この速さで景色が動くならなおさら変化が目立つ。
祭りの気配がして、ここが中心部か、と思ったくらいの盛り上がりがずっと続く。
走れど走れど人々は飲んでは踊っており、深まる夕闇を歓迎するようにまだまだ盛り上がっていく。
祭りの空気の特別さはどう言い表せばいいだろう。
蠢く感情には喜と楽しかなく、期待感すら抱かせるのに、どこか危うさというか不安定な感じがする。
人々の膨大な熱量が浮ついている。
何かきっかけになるような感情があれば暴発するんじゃないかと予感する。
そこにわずかな指向性があることに、嫌でも気付いてしまう。
空気がうねっている。
人ごみの中で渦巻いている。
祭りの気に当てられた人々が、互いに煽りあうようにそのうねりを強め拡げている。
聞こえた。
闇地図。
クロノス。
確定だ。もうすべて広まっている。
そして、何かが起きている。
これからどうなる?
動くのは憲兵か?
それとも冒険者ギルド?
というかそもそもこんな速さで話が拡がるとかありうるのか?
情報が欲しい。
話を聞くか、いや、誰から聞く? 誰なら確かだ?
周りに目を配る。
すると気付く。この噂をしているのは冒険者が中心だ。
人ごみの密度がより高い方があって、うねりは一旦そちらで渦巻いている。
冒険者ギルドは人でごった返していた。
前の通りでは両側に出店が並んでいて、激しく人が往来している。
俺と同じく情報を求めてやってきた人が受付の方に押し寄せている。
俺も見知った顔があってそちらに向かおうとするも、まったく進めない。
「通してください!」
声が人ごみに吸収される。
「どいてください!」
負けないように声を張り上げる。
熱気に呼応してしまい、こちらの側も不自然に盛り上がる。
「ヴィム=シュトラウスです! ここを通して!」
そして俺の名前を出した瞬間、聞こえる範囲の周りが静まり返った。
すかさず無理やり人ごみを押しのけた。
顔見知りの受付嬢さんの前になんとか躍り出た。
「何があったんですか!?」
「あ、ヴィムさん!?」
元とはいえ俺は【
無関係だと言う人はいない。
「いったい何が、どうなってますか」
受付嬢さんは躊躇う様子を見せたが、決意したように口を開いた。
「【
やはり、そうか。
「でも情報とか噂の段階ですよね? ここまで拡がってるのはいったい」
「いえ、もう半ば公表されている段階です。ここ最近の【
おいおいおいおい、ソフィーアさんは全部計算済みだったのか?
本気にもほどがある。
いやちょっとまて。
今、「あった」って言ったか?
過去形で?
「それってつまり」
「はい。冒険者ギルドの対人部隊と憲兵団が合同で【
大捕物、ってやつだ。
*
何百回と通った、冒険者ギルドから【
人ごみの中を走る。
避けることだけに集中したって問題ない。
体が勝手に覚えている。
迷うことなどありえない。
この道の景色はすべて知っている。
朝も、昼も、夜も。雨でも風でも。
あるときは報告書、あるときは本、あるときは討伐証明部位を片手にこの道を通ってきた。
居心地が良かったわけじゃない、受け入れられていたわけでもない。
だけど達成感はあったし、充実感もきっとあった。
少なくともこの道を歩くことは俺のいつも通りで、そして扉を開ける瞬間に一種の安心を感じていたことも確かだ。
それだけに感じる。
あまりに大きな違いを訴えかけてくる。
異様な空気だった。
俺が向かっている先がうねりの中心に間違いなかった。
石畳を進めば進むほど祭りの浮ついた熱気が膨張し、同時に変質していく。
香ってくる酒の匂いに悪いものが混じる。
楽しそうな笑い声は怒鳴り声に変わり、興味や期待は悪意に姿を変え、暴力すら見え始めた。
それらが相乗効果を起こしてさらに群衆の制御を外していく。
盛り上がりがどんどん悪い方に進んでいく。
その先に待っているものとは、果たして。
ここを曲がれば、俺たちのパーティーハウス。
何が起こっているのかをこの目で確かめられる。
意を決して踏み出す。
同時に隠れていた景色が露わになる。
一つの角を挟んでおぼろげになっていたものが、言い訳する間もなく直接俺に相対する。
飛び込んできたのは光と、怒号。
【
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