第15話 大規模調査

 フィールブロン最大級の冒険者パーティー【夜蜻蛉ナキリベラ】による、大規模迷宮潜ラビリンス・ダイブ


 衆目を集めないわけがない。

 冒険者ギルドに向かう道すがら、いろんな人の視線や噂話に晒されていた。


「ヴィム、君の名前が聞こえたぜ」


 ハイデマリーがニヤニヤして肘で小突いてくる。


「やめいやめい」


 言われると気になってくる。

 確かに俺のことを指しているような声がちょくちょく聞こえてきていた。あいつが、とか、あれはヴィムか、とか。


 そりゃあいい顔されないよなぁ。


 パーティーを追い出されて早々、大手パーティーに寄生だなんて、コネを疑われても仕方がない。


 と言うか実際にハイデマリーのコネだ。


 周りの目を気にしてしまうと、逆に投げかけられる視線を辿るようになる。

 すると自然とその視線の主に目が行く。


 そして、そこまで他者を意識してしまえば、思い出してしまうものがあった。


 、見ていたりするのかな。


 自分でも驚く。

 俺はまだ【竜の翼ドラハンフルーグ】の仲間だった人たちをと呼んでいる。


 最近、【竜の翼ドラハンフルーグ】の名前はとんと聞かない。

 少なくとも迷宮潜ラビリンス・ダイブにおいては目立って成果は出していないと思うけど、実のところ怖くて調べることもしていない。


 多分まだ怪我が癒えてなくて、まとまった収入が入るような迷宮潜ラビリンス・ダイブを行えていないんじゃないだろうか。


 俺なら、階層主ボス撃破の名声を使って何かするかな。

 討伐証明部位の審査がちゃんと通ればAランクに昇格するわけだし、大金も手に入るだろう。

 貯金も合わせれば、買えていなかった回復薬の備蓄を補える。

 もしかすると万能薬エリクサーを融通してもらえるかもしれない。


 ……俺はもう【竜の翼ドラハンフルーグ】とは無関係だって言うのに、何を考えているのだろう。


 が今の俺を見たら、どう思うかな。

 やっぱり気持ちが良くはないよな。


「……ふへへ」


 いかんいかん、コネとはいえ、お世辞とはいえ、曲がりなりにも【夜蜻蛉ナキリベラ】のみなさんは俺を評価してくれているんだ。


 余計なことを考えず、できることをしよう。





 冒険者ギルドは特殊な建物、というより施設で、地上に受付や依頼の為の大きな建物があり、その地下には迷宮ラビリンスの第一階層がある。


 この第一階層までがギルドの管理下にあり、もはや建物の地下一階といった様相である。

 第一階層の入り口からは最奥にある転送陣までは舗装された道路が敷かれていて、一つの軍隊が通るくらいはわけない。


 受付を終え、いよいよ第一階層に入る。

 道路を進んでしばらく、中腹の開けた場所にて、カミラさんは振り返り、全員に号令をかけた。


「総員傾注!」


 全員の背筋が伸びる。

 【夜蜻蛉ナキリベラ】総勢百二十二名の視線が、一点に注がれた。


 【夜蜻蛉ナキリベラ】のような大きなパーティーによる大規模迷宮潜ラビリンス・ダイブというのは、他の零細パーティーのそれとは少々事情が異なる。


 最前線のパーティーは、真っ先に危険に飛び込む責務を背負っているのだ。


 迷宮ラビリンスは理不尽であり、ほとんど初見殺しみたいなトラップも珍しくない。

 かつては奴隷を先遣隊として送り情報収集を押し付けることもあったのだが、誇り高い人々はそのような悪習を許さなかった。


 強者こそ危険に身を投じねばならない。


 その先に迷宮ラビリンスの踏破と言う名誉がある。


 つまり、今回俺たちは危険な目に遭いに行く。



「これより我々は未知なる階層、第九十八階層への調査へ赴く! 諸君も知っての通り、これは先日までの調査とは一線を画す、正真正銘命懸けの大調査である! 恐れは遺書と共に置いて来たはずだ! 腹を括れ!」



 頷いて応える。



「命を捨てよ! そして、その命は栄誉と宝物と、隣にいる仲間を守るために使うのだ! 【夜蜻蛉ナキリベラ】は一羽も欠けることなく帰還してみせよう! 我々の帰路に悲しみは必要ない!」



 一瞬みんなの視線がカミラさんから離れて、互いを見遣みやる。

 共通した熱を感じる。

 その熱は合わさって、いつの間にか増幅していく。



「意気揚々とした凱旋を! フィールブロンに【夜蜻蛉ナキリベラ】在りと!」



 カミラさんが右腕を上に振り上げると、士気が爆発した。


 男性陣の野太い雄叫びが迷宮ラビリンス内で反響し、女性陣のそれでも野太い雄(?)叫びがそれに混じって音量を上げる。


 みんなが「うおー!」と叫ぶ。


 そして一通り声を出し終わるか終わらないかくらいのタイミングが見計らわれて、カミラさんが一言キリッと放った。


「総員、前進!」


 一団が再び歩き出す。

 さっきより明らかに歩調に力がある。俺もそれに慌ててついていく。


 これが最大手冒険者パーティーの本気か。さすがと言ったところ。


「こういうノリ、苦手でしょ」


「……気付いてもそういうこと言うもんじゃないって、ハイデマリー」


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