雑用付与術師が自分の「最強」に気付くまで〜迷惑をかけないよう、出来れば役に立つように生きてきましたが、追放されたので好きに生きることにしました。そちらのパーティーが崩壊しているようですが知らないです〜

戸倉 儚

第一章

プロローグ

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よろしくお願いいたします。


─────


 迷宮ラビリンスの支配者たる階層主ボスとの遭遇。


 伝聞ではなく歴とした現実としてそれが目の前にある。他のモンスターとはあまりに違う、異質な風貌。

 その脅威はいざ階層主ボスを視界に入れるだけでは理解できず、受け止めるまでしばらくかかる。


 そしてその、しばらく、の間に撤退を選べなかったら。


 もしくは功名心を優先したりすれば。


 待っているのは死だ。


 だから目の前の光景は必定だった。


 リーダーで剣士のクロノス、魔術師のメーリス、僧侶のニクラ。

 全員が戦闘不能で、下手をすれば後遺症が残る重傷を負っている。

 あの大きな尾で一薙ぎされただけでこの惨状。最初の一瞬に撤退の判断を下すべきだった。


 脚が震える。

 たまたま後方にいたから避けられた一撃。

 もしも俺が避けられなかったら今この瞬間、すでに全員が胃袋の中にいただろう。

 三人が食べられていないのは俺に意識が向いているから。

 階層主ボスは慎重で、不意打ちの初撃以外は安易に突っ込んでこない。


 だから今からわずか、俺の弱さを確信されるまでの数秒間で、みんなを助け出す方法を考えねばならない。



 ──抱えて逃げる?



 無理だ。一人だけ抱えるならまだしも三人は無理。



 ──囮になって時間を稼ぎ、他のパーティーの救助を待つ?



 これも無理。

 逃げる速さを抑えて引きつける、なんてやっている間に俺が殺されるし、そして囮にかかってくれるかといえば望み薄。

 なんなら救助に駆けつけてくれたパーティーが壊滅するということまで考えられる。


 ああもう、方法は一つしかないんだ。いい加減逃げるな。


 覚悟を決めると脚の震えは全身にまで伝播でんぱする。

 息を大きく吸って落ち着ける。なんとか構える。


 情報は多少あるが勝ち目がほとんどない。

 だけど勝つためにはそのわずかな勝ち目を何百回も拾い続けないといけない。

 悲観するな。今ここで俺という小物に選択肢が与えられた時点で奇跡だ。



「移行:『傀儡師ぺプンシュピーラー』」



 取り返しのつかない象徴詠唱を終えて俺はようやく、自分だけ逃げるという選択肢に気付いた。


 我ながら呆れる。

 お人好しなのかなんなのか。いや、【竜の翼ドラハンフルーグ】の一員として当然か。

 恩もある。

 過ごした日々の積み重ねもある。


 ここが、命の使いどき。


 そう思えた自分が、なんだか少し誇らしかった。



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