第62話「ジェイド、現状を語る」
「ひどいお兄ちゃんだな。縛られたままの子たちを放っておくなんてさ」
ベリルが、非難するようにため息をもらす。
「そうだよ。それは、わたしもひどいと思ったよ」
女の子が、ベリルの言葉に大いにうなずく。
「しょうがないだろ。時間がなかったんだから。それに、この作戦でのこいつらの役割は、何もしないことだったしな」
ジェイドはそう言うと、ベリルを見やった。このおびえようでは、仕方なかったのかもしれない。
「でも、かわいそうだよ。きっとみんなも、役に立ちたかったはずなのに……」
男の子のひとりがそう口にする。
「おいおい。残酷だな。こんなにおびえた連中を無理やり引っ張り出して戦わせようってのか? そっちの方が、かわいそうじゃないか? こいつらは、今できる最大限のことをしてくれたんだよ。騒がずに見守るっていうさ」
「みんな。もう安心してね。ロープをすぐに解いてあげる」
「これを貸すよ、汚れてるけど」
ジェイドから手術ナイフを受け取ると、スピネルは牢の中に入っていった。
「どうする? 連中はすぐに戻ってくる可能性が高い。牢から全員逃げ出したとしても、見つかるのがオチだぜ?」
ジェイドは、ベリルを見てそう言った。ベリルもうなずく。
「……たしかに。牢から出ても、助かったことにはならない。クリスタルの瓶と悪魔の名前を早く見つけないと」
ジェイドは、ランタンを頭上に持ちあげ、枷を解かれた子どもたちの顔をながめた。
「聞いてくれ! この船から全員で無事に脱出するために、みんなで協力する必要がある。みんなの力を貸してくれないか?」
そこで一区切りして、ジェイドは言葉を続けた。
「まず、今わかっていることを話すぜ。あいつらは、君らを使って儀式をするって言ってた。俺は、一度捕まって海賊から直接聞いたんだが、今この船は地獄の門って空に浮かぶ島に向かっているらしい。子どもたちを、そこで儀式の生贄にするんだとさ。
みんなも、薄々感じていると思うけど、海賊たちは、ミイラみたいだろ? ふつうじゃない。本来なら死んでいておかしくない連中さ。きっと子どもの命を奪って、それで自分たちが蘇ったりするんだろう。そのために集められたんだ、お前らは」
ジェイドの言葉に牢の中はしんと静まった。
「それで、もっと悪い知らせなんだけど、その海賊たちの親玉って言うのが、どうやら悪魔らしいんだ。悪魔ってわかるだろ? お話に出てくるあの悪魔だ。どうも、どっかのバカが、悪魔が封じられたクリスタルの瓶ってのを開けちまったみたいなんだよ」
「ぼくら、どうなっちゃうの?」
奥にいる男の子が、声をふるわせる。
「悪魔なんでやだ。こわいよ」
横にいる女の子も泣き出した。
「なにしたって無理だよ。助からないよ……」
膝に顔をうずめたまま、別の子も投げやりにそう言った。
「このまま、なにもせずにいたら、そうなるだろうな」
ジェイドがきっぱりそう言うと、あちこちからすすり泣く声が聞こえはじめた。
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