第41話「ジェイドの決断」

 残っていた三個のガムを口の中に放り込むと、ジェイドは、急いでかみはじめる。せわしなく口を動かしながらベリルを見た。


「よく聞け。今から俺は捕まる。お前はその隙に逃げろ」

「は? そんなことできるわけないじゃん」


 ベリルが険しい顔をする。


「いいから、言う通りにしろって」


 ガムを吐き出すと、手でこねながら手術ナイフの刃を包みはじめる。さらに、さきほどロープをほどいて作った紐をナイフの柄に結んだ。


──ガシッ!!


 兄がやろうとしたことを見て、ベリルが、ジェイドの腕をつかむ。その力は、ジェイドの想像以上に強かった。


「力、強くなったなお前」

「何やってんだよ、お前は……! 気は確かかよ!」


 ベリルが、すごい剣幕で兄をにらんだ。


「こんくらいしないと、助からねぇだろ?」


 ジェイドが、いつもと変わらない様子で言葉を返す。


「僕らなら何とかできるさ。て言うか、なんで僕だけを逃がすんだよ? いつだってそうだ。自分ばかりが犠牲になろうとして……」

「おいおい、いつもの冷静なベリルくんはどこ行ったんだい? いいか? 俺は別に犠牲になって捕まるんじゃないぜ?」


 そう言うと、ジェイドが弟の両肩に手を置く。


「俺たちは、まだふたりだとは気づかれていない可能性がある。なら、ふたり仲良く捕まってやることはないさ。ふたりして捕まってみろ? それこそ終わりだ。俺が上で暴れるから、隙を突いて逃げるんだ」

「でも……!」

「しゃべってる時間はねぇ。俺は行く」


 そう言うとジェイドが、ベリルの顔を両手で押さえて目を合わせる。


「必ず助けに来てくれよ? 待ってるぜ」

「……うん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る