003 国防局の騒動

 ビーッ!ビーッ!


 帝都にある国防局の一室で警報が鳴り響いている。その部屋の中で複数の男たちが必死の形相で動き回っている。対戦略級モンスター広域警報装置からのアラートがなるのは実に十年ぶりだった。その為、慌ただしく情報収集を行っている。


 国防局の局員の一人であるイコマが報告にやってくる。


「ヤジマ局長、場所を特定しました。ここから南東300キロ、月模領の位置です」


 帝都の周囲には領地を五つに分けて五家老がそれぞれの領地の防衛を任されている。方角からすると日波にちなみ家の担当地だったがそちらからの連絡はきていない。日波の防衛ラインが連絡をいれる暇もなく壊滅したとは考えずらかった。


「移動はしているか?」


「いえ、それが……発見したと思ったらすぐに反応が消えてしまいました」


 普通のモンスターなら兎も角、戦略級モンスターは魔領の奥深くで時間と共に成長するので人領から突然姿を現すことはない。だが五家老である日波が監視する魔領から監視をすり抜けて月模領まで来れる訳がない。また闇雲に街をおそっているなら事前にその報告も上がっているはずだ。ならば戦略級モンスターが現れたというのは無理があるだろう。だがヤジマにはもう一つ心当たりがあった。


「もしかしたら久々の転生者が現れたのかもしれんな」


「転生者ですか?」


 ヤジマ局長の言葉にイコマは眉を顰める。もう最後に転生者が現れてから三十年程はたつ。それまでは結構な数の転生者がいたらしい。また、問題行動の多さから専門の機関が出来て対処にあたっていたと聞く。犯罪者ならば時には討伐し、更生の余地があったり幼い子供の場合は保護して再教育を施していた。


「ああ、このパターンだと可能性は低いが……なくは無いだろう。一応日波には警報の確認しておけ。あとは問題があるとすれば既に対転生者機関がすでに解散している事だな」


 転生者は神から特上の魔力回路を授かるというが全てが最上級というわけでもなかった。その為、ギリギリ警報に引っかからない魔力量である可能性は排除しきれなかった。とはいえ最初に警報に引っかかったのが解せないヤジマである。目の前のイコマを見てコイツに確認しに行ってもらうかと考える。


「君は魔力測定器を準備しておいてくれ。命令があれば君に確認しに行ってもらう」


「うーん魔力測定器ですか。たしか二級のものしかここにはありませんよ」


 国防局は役割上、強力な魔獣やモンスターを相手にすることが多いので制度の低い魔力測定器でも十分だったため人間用の精度の高い魔力測定器は持っていなかった。


「転移者なら二級品で十分だ」


 魔力量に応じて四つのランクがあった。人間の場合は低級、中級、上級の三つだ。だが、転生者は神から魔力を与えられている為かもう一つ上の特級の魔力量を持っている。これは戦略級のモンスターと同様の魔力量であり人としては規格外であった。その為、二級品の魔力測定器さえあれば問題はなかった。


「南東300キロならば日波傘下にい月模つきも家の領地だな。そちらには俺から連絡をいれておこう」


「見つけたらどうするんです?」


 月模家は貴族だった。ただの局員でしかなイコマに月模家の直轄地から人間を攫ってくることは出来ない。


「何もしなくていい。見つけたら報告しろ」


「えっと大丈夫なんでしょうか?過去に問題が起きていたんですよね?」


 イコマにとっては転生者はおとぎ話の住民だった。生まれながらに生前の知識も持っており、高い魔力適正をもつ。中には神の加護ギフトまで与えられ奇跡のような現象を起こせるという。まるでモンスターに相対するような気分だった。それについてヤジマに確認する。


「幼少期ならば問題にならん。どんなに高い素質を持っていようともあくまで素質だ。きちんとした教育を与えて本人の努力がなければ脅威にならん。それにな、生前の知識も良し悪しだ。こことは異なる物理法則に支配されている世界の知識がこちらで通用する保証はない。むしろ足を引っ張ることすらある。なんの実績もない方法論で無駄な努力を続けてまったく能力が伸びなかった転生者もそれなりにいたさ。生まれたばかりの赤子ならば急ぐ必要はない」


「それは初耳でした。脅威ばかり耳にしていましたのでしゃべるモンスターのように思っていました」


 ヤジマはそう思うのも無理はないなと苦笑した。ただでさえ異世界という外部からの異物という認識が強く仲間意識が芽生えづらい。そのうえ本人がこの世界に馴染むつもりがなく問題行動を起こす事が多かった。そのせいか物語に出てくる転移者は悪役として登場し、冒険者や騎士の英雄譚の添え物になるのだ。


彼等転移者も我々と同じ人間だ。そこまで変わらんよ」


 そういってヤジマは席を立ち部屋から出て行った。


 珍しく感情的になっていたヤジマの背中を見送りながら余り関わりたくないなぁと切実に思った。

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