9月21日

ゆるすら

9月21日

「月が綺麗だね」


彼がいつも少し古い小説を好んで読んでいることを私は知っている。綺麗と言ったのに視線は月よりもずっと下に向いていた。

私はなんと答えるか少しだけ悩んだ。彼がどんな答えを待っているか予想がつくのに、私の口をついた言葉は、意地の悪いものだった。

「私は太陽の方が綺麗だと思うわ。」

彼は一瞬だけ寂しげな表情を浮かべると、緊張感をため息と共にを吐きだした。それを皮切りに私達はいつものーーー幼馴染の距離感に戻った。

(はっきりと自分の言葉で伝えてくれれば、答えは全然違ったのに。もう)

私の本音は秋風と共にどこかへ飛ばされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

9月21日 ゆるすら @eiti2oh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る