第6話 旅は道連れ
船頭には曖昧な返事をして惣兵衛は宿場に引き返した。心労でヘトヘトに疲れて、これ以上は動き回る余力もない。京都を出て五日目になるけれど、まだまだ先は長い。なるべく早く着いて
惣兵衛は泥だらけの足袋を脱いで、裸足にわらじを履いた。
食後にトボトボと歩いていると偶然にも、道でたむろする人足の会話が耳に入ってきた。
「とんだ雨だ。これじゃ向こうに泳ぐのも無理だな」
「そうだな」
「こりゃ、遠回りだけども川を回り道するしかねえよ」
そう言って、人足はそのまま歩き去って行った。
「…回り道?」
惣兵衛は疑問に思いつつも、追いかけて聞く余力もない。
「御免ください」
その日は旅籠に宿を取った。
その晩、寝床でどうするか考えていたが、神様は機嫌が悪いのか?小雨だが、この間にも外では雨が降っているのだった。
しかし、どうにも回り道という言葉が脳裏に触っている。あの船頭は惣兵衛がこの辺りの事情に通じてないのを悟って、
早朝…、
「はぁぁ」
憂鬱な気分で惣兵衛は布団から起き出した。
宿の土間から食事の準備をする音が響く。疲労回復も十分とは言えないが、どうせ足止めを食らっている身だ。そう思うと動きも緩慢になる。
宿で炊かれた麦飯を食べに降りる。
そこで一緒に相伴したのは三人の商人だった。元は伊勢の海産商に勤めていたが、そこの若旦那の兄弟が分家して商いを始めるので、若旦那の命もあって男だけを連れだって来たという。
「お三人の知恵でどうにかなりませんか?」
と、惣兵衛が同じ境遇と見込んで相談したのだった。
「こっちも東海道を歩くのは五年ぶりだ。誰に訊ねると言っても、土地の者はきっ
と我々の足止めも商売繁盛。良い手立てなど教えてはくれないだろうさ」
「昨日、宿場で人足の会話が耳に入ってきまして、この川を回り道して戻ると聞こえたのです。海も荒れているようですし、何の事でしょう?」
「回り道ねえ?」
「ここ数日は生憎と海も荒れているので船が出ないようだが、無理をして難破などすれば災難だぞ。悪い事は言わないから安宿を見つけるのだな」
さらに席の端に座る
この寛一の話を聞いて、惣兵衛は三条大橋での仲間の言葉を思い出した。
「こんな所で
そんな惣兵衛の様子を窺った善右衛門は何やら考えているようで、難しそうに腕を組んで頭を傾げている。
その様を見守っていると、ようやく口を開いた。
「遠回りなので今まで考えが及ばなかったが山側はどうだろう。川沿いの脇道から遠回りする手があるかもしれないぞ」
「…おお、なるほどな」
「山側?」
惣兵衛にはわからなかった。
「あの川の上流には
「いやいや。別の土地でしょう?」
半助が言った。
「ふん。他には考え付かないな」
善右衛門はそう言って、茶を
惣兵衛はいろいろと思案して、これは吉報を得たと思った。すると、さっそく準備
に取り掛かるために飯を急いでかき込み、部屋に戻るのであった。
残された三人は
「ここは
惣兵衛は独り言を言って、下にいる三人を誘った。
「手前たちにはまだ連れがいるのだ。その者が今日中には追い付いて来る筈なので、もうしばらく待たねばならん」
と、善右衛門は言った。
「そうでしたか。先を急ぎますので、進めるようなら行ってしまいますが、駄目そ
うならば戻ってお三人にお伝えしたいと思います」
「これはかたじけないな」
「道が悪くなっているから気を付けろよ」
「あんまり期待するなよ」
各々から言葉を頂戴する。
こうして三人とは別れ、惣兵衛は急ぎ先を進むのだった。
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