3分で読める短編集

坂道

物語のカケラたち

 俺は不幸だ。


 両親は5年前に事故でこの世を去り、唯一の家族である妹は、先日重い病に倒れた。


 そして、来年には俺も死ぬ。

 細かい日付まではわからないが、馬に蹴られて即死することになっている。

 そう、これは決まっていることなのだ。


 どういうわけか、俺はこの先自分の身に起きる出来事をいくつか知っている。

 未来予知などといった特別な力を持っているわけではなく、ただ知っているだけ。

 そして、この筋書きを変えてやるなどといったこともしない。そういうものではないこともわかっているのだ。

 俺は自分の運命を受け入れるほかない。


 おそらく、この世界は誰かによって作られたもので、俺はその中の登場人物なのだろう。

 まあ、1年後にあっけなく死んでしまうのだから、主人公でないことは確かだけれど。

 まったく、俺をこんな不幸な役どころにしやがって。作者の奴を一発ぶん殴ってやりたいよ。


 他の人たちも俺と同じなのか気になって、自分の未来を知っているか尋ねたこともあった。しかし、鼻で笑われるか、変な目で見られるかのどちらかだった。


 運命を知っている俺は、もしかしたら少しは特別な人間なのかもしれない。

 この物語の中で、自分という存在はどんな意味を持っているのだろう。

 不幸な人生を歩み、最後は馬に蹴られて死ぬ。そんな俺でも、何かを成し遂げる可能性はあるのだ。

 俺は未来に期待していないわけではなかった。


 この物語の中で、俺の出番はいつなのだろう。








「ふぅ…。」

 ある程度仕事を進めたところで、私は一息ついた。


 私は神と呼ばれている。

 いや、実際に呼ばれたことはないのだが、自分が神であるということは知っている。

 神の仕事は、いくつもの世界を創造することである。ついさっきも、一つ完成させたところだ。


 どれ、うまく回っているかな。

 自分の仕事ぶりを確認すべく、私は先ほど作り上げた世界を覗き込んだ。


 …おや?

 なにやらおかしな思考を持った男がいる。バグだろうか。

 どうやらこの男は自分が作られたものだとわかっているようだ。


 どれどれ、こいつは…

 ああ、ただの村人か。この世界に影響を及ぼすものでもなく、名すら与えられていない。主人公とも出会わず馬に蹴られて死ぬ役だ。


 なにやら自分の運命に不満を持っているようだが、意味のない村人に対しても一人一人に人生を作ってやったのだから、感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはないのだが。


 …まあ、このまま放っておいても問題はないだろう。なんせ主人公がこの村を訪れるのは、こいつが死んでからだ。



 さて、あともう一踏ん張りだ。

 残り三つの世界を創造したら、私の役目は終わる。

 そのあとは、最後に作る世界から勇者が飛び出してきて、私は殺されることになっている。そう決まっているのだ。

 なぜかはわからないが、私はこの先自分に起きることを知っている。

 そして、これは抗えるものではない。そういう類いのものではないことも理解している。


 おそらく私も、村人と同じように作られた存在なのだろう。

 あの男を作ったのは私だが、それならば、神である私を作ったのはいったい…

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