ムサシNEXT ~宮本武蔵、異世界に転生す~

西村西

天下無双、宮本武蔵


 日本史上最強の剣豪、宮本武蔵。生涯において六十余回の真剣勝負を行い無敗。特に岩流の剣士、佐々木小次郎との勝負は後世にまで名勝負として語られている。



 老境に至り、己の死期を悟った武蔵は老後の多くを過ごした熊本藩にある洞窟、霊巌洞に篭って日々座禅を組み、眼前に迫る死をただひたすら待っていた。

 光の射さぬ洞窟の闇の中、死を前に武蔵は己の過去のことを思い返している。齢十三で真剣勝負を経験してからというもの、強者を求めひたすらに剣を振って戦い続けてきた。京の吉岡、奈良の宝蔵院、宍戸梅軒、何より岩流佐々木小次郎。己が戦い、打ち倒してきた強敵たちの顔が脳裏に浮かぶ。

 戦にも参加した。父、新免無二に従い東軍として戦った関ヶ原に、徳川方として参戦した大坂の陣。

 まさに戦いの人生。ただ剣を振るのが楽しく、強くなることが嬉しく、強者と戦うことが生き甲斐であった。真剣勝負という刹那の中に身を置くことが何より好きなのだ。


「………………まだ、戦いたい。剣を振りたい。もっと強くなりたい」


 薄れゆく意識の中、武蔵はボソリと呟いた。

 それは、死を前にした嘘偽りのない本音である。老いてなお、命尽きる時になってなお武蔵は剣に対する情熱を燃やしていた。

 やはり、最期も剣。己の心の中で、依然として刃が輝いている。

 もし、生まれ変わりというものがあるのならば。次の人生があるのならば。そう夢想せずにはいられない。

 出来ることならば、次も人として生まれたい。出来ることならば、また剣士として生きてゆきたい。そして出来ることならば、また強敵たちと切磋琢磨したい。

 出来ることならば、出来ることならば。

 そうして、武蔵の意識は闇の中に落ちてゆく。

 正保二年五月十九日、宮本武蔵は六十余年の生涯に幕を閉じた。



 そして目覚めた時、武蔵の目に眩いばかりの朝焼けが差した。

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