第2話 兄様

「ユエン、また俺の女にちょっかいかけたな!!この泣き虫が!!」


「ハルト兄様、誤解です!私は決してそのような事は!」


「嘘を言うな!このっ!!」


2番目の王子、ハルトはユエンを力いっぱい蹴ると

4番目の王子、ユエンは無様にも床に転がった。


「はっ、そうやって床に這いつくばってろ!」


「ほ、本当に、私は何も…うっ。」


ユエンは床に膝を付いて泣き出した。


「ミホン兄様ぁ…」


「うるさいっ!!あいつの名を口にするな!」


ハルトはもう一度ユエンを蹴る。


ユエンは転がりながら泣き、兄の名前を呼び続けた。


「お前!!いい加減にしないと次はこの剣で指を斬るぞ!」


「ハルト兄様!やめてください!!」


ハルトは腰に刺さっていた剣を抜きユエンの手を床にベッタリつけると勢いよく剣を振り上げた。


「うわぁん!ミホン兄様、助けてぇ!!」


その間もユエンは惨めにも泣きながら兄の名前を呼ぶことしか出来なかった。


「ユエン!」


声が響くと同時にハルトが振り上げた剣は後方へ飛んだ。


カランカランと音を立てて滑る剣をハルトは見つめ、舌打ちをした


「ちっ。」


「ミホン兄様!!」


「ユエン、大丈夫か?」


「はい!」


3番目の王子ミホンは構えていた剣を腰に直すと急いでユエンの元へ駆け寄った。


「おいミホン、お兄様がここにいるのに挨拶もしないとは何事だ?」


「失礼しました。何故ハルト兄様がこちらに?」


「ふん。お前の卑しい弟が俺の女にちょっかいかけたから少しお仕置に来たまでだ。」


ハルトはユエンを睨みつけた。


ユエンはミホンの後ろに隠れこっそり覗いた。


「そうでしたか。では、お仕置はお済みですか?」


「もういい。おい、泣き虫、次やったらどうなるか、しっかり覚えておけ。それとミホン、卑しい分際で頭も下げずに俺に話しかけるのはいかがと思うのだが。」


そう言うとハルトはミホンの腹を鞘に収まったままの剣で力いっぱい殴った。


ミホンは小さく唸ってそのまま膝を着いた。


後ろにいたユエンはハルトと目が合い一瞬ビクッとして、すぐに目を逸らした。


「俺たちはお前達とは違う高貴な血筋なんだ。対等と思うなよ、卑しい血筋が。これが正しい挨拶の仕方だ。覚えておけ。」


「大変申し訳ございません。ご教授頂きありがとうございます。」


ハルトはそのまま去った。


「ミホン兄様!大丈夫ですか!?誰か!兄様を部屋までお連れしろ!うっ、兄様。死なないで兄様。ううっ。」


「ユエン、大丈夫だから。ほら、泣くのはやめろ。男がそう簡単に泣くもんじゃないぞ。」


「でも、兄様がぁ…」


「ユエン、泣いていいのは悔しい時と嬉しい時だ。誰にも知られない所でこっそりとな。男である以上強くあれ。ユエン。」


「うぅっ、わあああんっ!兄様あぁ!」








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