第11話 見習い魔女とマッドナイチンゲール
純朴そうな若者から腕を離して美女が駆け寄ってくる。相変わらずたわわな胸が奔放なことだ。
「白緑が男連れなんてどう風の吹き回しかしら。それにその荷物。あ、もしかして――」
きっとこいつ、これから失礼なことを言うわね。
「処女卒業おめでとう!」
そう叫んでガシッと私の両手を掴んだこの変態痴女……げふんげふん、露出多めな服を着た爆乳女は魔女大の同期。
「ちょっと止めてよ。良司さんとはそんなんじゃないわ」
疎らとはいえ人目もあるのに。大きな声で恥ずかしいことを言わないで欲しい。
「白緑く――さんのお友達?」
「え、ええ。この子は
私の顔を見てきた良司さんに囁く。
「あら? あららら? 白緑はこの人に魔女だって伝えてるの? じゃあやっぱりそういう仲なんじゃない」
これまであまりにも男っ気の無かった私だ。乱子の目が興味で輝いている。良司さんが挨拶をしようとしたのを遮ってグイグイくる。
「ああもう! 本当は同期会で自慢するつもりだったのに……あのね乱子、良司さんは私の使い魔なの。それも月光の妖力に適性があるとっても凄い珍しいタイプのね」
予定とは違ったけれど、使い魔自慢ができて少し嬉しい。
「ええ!? それはもう処女卒業どころじゃなわ! 予定変更、緊急招集――はダメね。やることあるのよ」
思い出したように放ったらかしていた純朴男子を見た乱子が、ごめんねと微笑んだ。
どうしていいか分からず、ドギマギしていた純朴男子は乱子に手招きされて、安心したように
「あっ」
私の口から小さな驚きが溢れた。
「は、はじめまして。俺、杉村っていいます」
少ししゃがれたような声で色黒。スポーツ刈りを放置してそのまま伸びたであろう短髪にやや幼さが垣間見える輪郭。さらに誠実さの中に燻る初々しい性欲も感じ取れる整った容姿は、乱子の拗れた
二十六年前に乱子を乱子たらしめることとなった事件の原因と瓜二つ。
彼の存在を知ってから、いつもカントリーロードを口ずさみ不可能とされる二次元から錬成するホムンクルスの研究に没頭していった乱子だけど、遂に成功したのだろうか。
「やだ、違うわよ白緑。杉村は正真正銘の人間よ」
ああそれは可哀想に。
乱子に腕を組まれてまた幸せそうに含羞んだ杉村の未来に心の中で手を合わせる。
でも待って。人間なら人間で問題があるじゃない。
「あの、つかぬことを伺いますが、杉村さんはおいくつなんですか?」
「十八歳になったばかりです」
おおお、こ、これはギリギリ過ぎる……というかアウトじゃない。今は一月。つまり十八歳になったばかりというのは高校生。
チラりと乱子を見れば胸を思い切り杉村の腕に押し当てて顔を上気させている。
こ、こいつ……チャンスがあればいつかやるんじゃと思っていたけどまさか現実になるとは。いくら倫理観に疎い魔女でも淫行は如何なものか。
「ん、ふぅ。でね、私たちついさっき婚姻届を出してきたの。勿論、杉村の両親にも祝福してもらってるわ。だからそんな顔しないでおめでとうって言って。ね、白緑?」
両親は魔法でをどうにかしたのだろうと確信していたら、乱子がちょっぴり寂しそうな顔をしてしまった。
そう……よね。偽りまみれの友情とはいえ、二十数年来の親友。経緯はどうであれ、おめでたいことなんだからきちんとお祝いしなくちゃ。
「長年の夢が叶って良かったわね。おめでとう乱子」
「おめでとうございます」
良司さんも私に続いた。
「ふふふっ、ありがとう。じゃあ私たちは行くわね。白緑と同じで私も同期会で結婚の自慢をするから、秘密にしててね。それじゃまた夜に。あ、そうそう。人の旦那を下の名前で呼ぶのはマナー違反よ」
乱子はそう笑うと、愛しのダーリンと共に信号機の影に姿を消してしまった。
「あの女、私たちのことは無視でしたね」
『感じ悪いな~』
ずっと黙っていたシラーとベリーが拗ねた声を出した。
「まあいいじゃない。浮かれてたのよ。私たちも行きましょう」
何度目かの青信号。私は再び良司さんの家を目指した。
そして到着した。
途中、シラーとベリーが出店を見付け、たこ焼きや綿あめなんかを次々と盗むといったハプニングもあったけれど、順調な道のりだった。
なのに……
「ここ、ですか?」
「そうだよ白緑さん」
唖然とする私の前には厳つい城が建っている。まるで懐かしのスーパーマ●オワールドに出てくる、各ワールドの最後に挑む円柱形で屋上の壁だけ凸凹しているあの城のよう。
母の魔法で兄弟たちとあのワールドの中に入ってよく遊んだものだ。
ちょっとした現実逃避から帰還して、次の疑問と向き合う。
城が小学校と中学校と高校に取り囲まれているのだ。
「どうしてこんな場所にある変な形の家に住もうと思ったんですか?」
「変な形? そうかな。場所は確かにそうだけど普通の一戸建てだよ……」
え? と顔を見合わた私たち。お互いに見えている形が違うのだと気が付いた。
どうやら良司さんの家は魔法物件だったらしい。
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