体育祭
第14話 体育祭種目決め
今日から十六夜高校の体育祭準備が始まった。
体育の時間や放課後を使って準備や練習をすることになる。千慧のクラス1年B組は赤軍、千歳と百合のクラス2年A組は青軍、副会長の万尋と六季のクラス2年B組は緑軍、と言うように先輩たちとは敵同士となってしまったのだ。
「千慧も選抜リレー出るよな?」
「やだよ、目立つし」
「ふーん、会長に見てもらえなくても良いんだ?今年は生徒会長、応援団長やるかもって話なのに?」
どうして七桜がそのことを知っているんだ。
それにまだ確定しているわけではない。先輩と同じクラスの人たちがそうやって騒いでいるだけだし、先輩的にはまだ迷っているようだった。
ちょっと困ったような笑顔ももちろんスマホの中に収めている。それにもし俺が選抜に出てしまったら、先輩の応援姿が撮影できなくなってしまう。それだけは何としてでも避けたい。
「あ、そういえば応援団長って選抜のアンカーで走るんじゃなかった?」
近くにいた女子、中森さんが思い出したように声を上げた。この高校は、毎年選抜リレーで各軍の団長がアンカーを務めるんだとか。先輩が走ることはないだろうと軽く考えていたのが間違いだった。
『今年は頑張って走ろうかな……?』
『それでこそ生徒会長だっ!!』
なんだって……!?
衝撃の言葉が耳に飛び込んできた。まぁ、俺以外には聞こえていないんだけど。盗聴器越しに聞こえたのは、先輩が走る宣言。元々身体が強くないから、体育はほとんど見学していると言っていた先輩が走る!?応援の衣装がどうなるかはわからないけど、先輩がその衣装で走るんだと思うと、動悸がしてきた。
いや、何着ても似合う先輩だけど、走る姿まで拝めるなんて……っ!
「おーい、千慧〜!戻ってこーい」
「―――えっと、何だっけ……?」
しばらく別世界にいたようで、状況が飲み込めずにいた千慧は思い出したように黒板を見上げた。そこには、各種目と希望する人の名前が書かれている。玉入れと借り物競走だけなぜか希望者が多いけど……?
「楽だからじゃない?ああそれに、学食の無料券かかってるし」
中森さんは、興味がないからと学年種目の綱引きとリレーしか出ないと言った。まぁ、ちょっと前の俺なら同じ選択をしたけど今回は先輩もいるし(別の軍だけど)ちょっとだけ頑張ってみようかな。どうせ先輩は俺のことなんて見てくれないだろうけど———。
「……七桜も選抜出るんなら、俺も出る」
「それでこそ俺の親友だ!」
し、親友っ!?
そんな言葉をサラッと言えてしまう七桜に、思わず面食らってしまった。今まで誰もそんなこと言ってくる奴いなかったのに。何だか少しだけ胸の奥が温かくなった気がした。話をずっと聞いていた中森さんは呆れたような表情をしていたけど、友人というものが何だか近くに感じられて純粋に嬉しかった。
「そーゆーこと言ってくるお前はイヤ」
「イヤっ⁉︎え、中森!俺、千慧に嫌われてる!?そんなん、生きていけないんだけどっ」
「西野ってどれだけ呉宮くんのこと好きなのよ……」
「大好きだっ!世界一いい奴だと思ってる」
もう、やめてほしい。顔から火が出そうなくらい暑いし、クラスの視線が生ぬるくてたまったものじゃない。なんだ、この公開処刑は……。本当に勘弁して。
「〜っ‼︎馬鹿っ!!!」
「あはは!呉宮くんてば顔真っ赤〜」
「そんな顔もするんだな〜」
と、クラスメイトに好き好きに言われているせいで、尚更恥ずかしさが込み上げてくる。この
「悪かったって!だからそんなに睨むなよ〜」
「まあまあ、体育祭前にみんなの仲を深めるのもいいことじゃない?」
中森さんが一言そう発すると、クラスから賛同の声が上がった。そして話し合いの結果、クラスで『Let’sお菓子作りパーティー』をすることになったのだった。
この後輩に、困ってます 泡沫ヒナ @Hina_Utaka
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