第11話 質問と過去

残りの紅茶を飲み干して、千慧はもう一つ質問をしてみることにした。午前中にクラスの女子から聞かれたあの質問だ。七桜に聞こうと思っていたのに忘れていた。


「あの、副会長さんって今付き合ってる人とかいるんですか?」


急に話題を変えたせいか、先輩は驚いた表情を見せたけど、普段の表情に戻った。


「1年生の子達がよくその質問してくるよね。確かいなかったと思うんだけど……」


「あはは、急にこんな質問してすみません。俺もクラスの女子に頼まれて。……じゃぁ、先輩は?付き合ってる人とか好きな人とかっていますか?」


今まで気になってたこと。先輩と出会ってからずっと胸の奥に引っかかっていたもの。


「えっ、いないよ?ずっと勉強ばかりだったし」


「良かった……。あ、今まではどうですか?過去に彼氏さんとかいました?」


流石にしつこすぎたか?と考えるが、こちらとしてもあまり余裕がない。早く、先輩が欲しいから。


「今までもいないよ。中学の頃はほとんど入院してたから」


「入院してたんですか?それは……」


どうして、と聞く前に口を閉じた。ここから先は不躾に聞いていいようなことではないと思ったからだ。他人が首を突っ込むような話ではない。


「喘息でね。しばらく日常生活を普通に送れないくらいに悪化しちゃって。今もあんまり激しい運動はできないの」


先輩は寂しそうな表情で俯いてしまった。と思いきや、またいつもの表情に戻っていた。


「どうしてそんなことを聞くの?」


千歳は千慧の質問の意図が分からず、頭に?を浮かべている。


「すみません。もっと先輩のこと知りたいと思ったのと、もし今彼氏さんがいるならこうやって時間を作ってもらえないかもしれないと思って」


うまく誤魔化せたのか、先輩は納得した様子で数回頷いた。


「そういう呉宮くんは?好きな人とかいるの?」


その質問に、ドキッとする。そりゃもう目の前にいるあなたです、とは言えない。出会って2日で告白する勇気は持ち合わせてはいない。


「ま、まぁ。気になってる人はいます……」


ちらっと先輩の方に視線を向けると、キラキラした瞳でぱあっと花が咲いたように笑った。今ここで、あなたが好きです、と伝えたら彼女は一体どんなリアクションをするのだろうか。喜んでくれるのか、戸惑うのか、それとも拒否されてしまうのか。とてもじゃないけど、今の自分には到底できっこない。


「そうなんだ!その人と上手くいくといいね!応援してるよ」


「ありがとうございます。……あの、これからもいろいろ相談したいこともあるかもなので連絡先を聞いてもいいですか?」


それとなく理由をつけて連絡先を聞き出してみる。


「うん、いいよ。ちょっと、スマホ苦手だからお願いしてもいいかな」


「大丈夫ですよ」


ありがとう、と渡されたスマホにはミントグリーンのリボンがあしらわれたイヤホンジャックが刺さっている。ミントグリーンが好きなのかな。千慧は自分の連絡先とチャットアプリのアカウントを入れてから、千歳に返した。


「俺の、メアドと電話番号も入ってます。何かあったらいつでも連絡してください。すぐ駆けつけますんで!」


「ありがとう。そろそろ帰ろうか。もう17時だ。17時半完全下校だから」


「なら、家まで送りますよ!春は特に不審者も多いって言いますし」


「じゃあお願いしようかな。ふふ、呉宮くんは頼りになるね」


千慧は千歳に褒められ、天にも登る気分で生徒会室を後にした。

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