この後輩に、困ってます

泡沫ヒナ

プロローグ

 先輩のことが好きです。



 そう言われて、大抵の女子ならときめいたりすると思う。

イケメンに言われればなおさら。

私だって乙女の心は充分持ち合わせているつもりだし、少女漫画みたいな恋愛に憧れもある。


 が、しかし今の状況とそれは別である。


 今、私の目の前にいる男。

 彼は私の一つ下の後輩の呉宮千慧くれみや ちさとくん。

 タレ目で大きな赤い瞳。

 笑顔は子犬のように可愛い、と私のクラスの女子の中でも評判がいい。

 まぁ、一般的にみてもかなりの美男子に分類されると思う。

 テストも学年1位を取るほどに成績優秀で運動神経もいいらしい。

 何か頼めば快く引き受けてくれるようで先生からも良く彼の名前を聞くことが増えた。


「先輩、2ミリくらい前髪伸びましたね?」


「えっ」


 ドン引きするほどの観察力に、言葉を失った。

 よく視線を感じるとは思っていたが、彼と出会う前からも羨望の眼差しを受けていたためあまり気にしていなかった。


 けど、これは明らかに違う!

 なんというか、他の人とは全然違う感情で気持ち悪ささえ覚える、背中に悪寒が走るようなそんな視線だった。


「先輩、どうしたんですか?固まってますけど」


「あぁ、今日も想像を上回る発言だったから。ちょっとびっくりしちゃって」


 あはは、と苦笑いを浮かべるものの内心冷や汗が止まらない。

 彼のこの行動は今に始まったことではないんだけど……。



「先輩の事見てれば分かりますよ?だって、好きな人のことは詳しく知りたいじゃないですか。これくらい普通ですよ


「そうだね……って、いやいや!!君にとっての普通は私にとっては異常だからね?!」


 危ない、丸め込まれるところだった。一瞬正論に思った私を殴りたい。

 思い出せ、これまでの彼の奇行を。

 彼は至って普通だ、なんて言っていたけど絶対普通じゃない。


 気づけば、写真を撮られているし、私の近くにいる……気がする。

 これが愛情表現なんだ、と笑いながら言う彼を否定しようとは思わないけど、流石に行動は自重して欲しいものである。



「だって先輩、あんまり自分のこと教えてくれないじゃないですか。俺、先輩のこといっぱい知りたいって思ってるんですよ?」


 そう言いながらもじわじわと近づいてくる彼との距離を縮めないように少しづつ後退りをする。

 しかし、トンと背中に壁が当たった瞬間で絶望感すら覚える。


 ねえ、と人の良さそうな笑顔を向けるが、今はその表情ですら冷酷さを感じて身震いをした。

 逃げなきゃ、と危険信号がうるさく警報を鳴らしている。




「先輩、好きですよ。ずっと」




 そもそもこうなってしまったのはいつからなのか。

 考えてみれば、私と彼の出会いが起因だったのかもしれない。













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