一翼の天使アリア

乃爲

第0話 【昔話】

 「ねぇ、おかぁさん!」

 月明かりが窓から差し込み小さな埃が舞う部屋の中、ギシギシと鈍い音が鳴るベットに小さな子供が隣に寝ている母親に声をかける。

 「今日はどんなおはなし?」

 「そうねぇ…」

 優しい声色で子供の質問に答えようと少しだけ上体を起こす母。

 「それじゃぁ、今日はこのおはなしにしようか?」

 そう言い、ベットの脇にある本棚に手を伸ばし適当な本を取ると子供へ表紙を見せた。

 「いやだ!それもう飽きちゃったもん」

 「それじゃぁこれは?」

 別の本を取り出し再び子供に見せる。

 「えー!いやだいやだ!新しいおはなしが聞きたーい!」

 「うーん。でもここにある本はもう全部読んじゃったわよ?」

 「うぅ…」

 小さく項垂うなだれる子供の頭に母は手を添えて優しく撫でる。その撫でる手を休めぬよう気を付けながら子供の願いに答えようと少しばかり考える。


 「あっ!」

 「…おかぁさん?」

 ぐずりながらも母の声に顔を上げる。

 「それじゃぁ本には書かれてない、お母さんだけが知ってる昔話を聞かせてあげようか?」

 「え?おかぁさんしか知らないおはなし?」

 少しの疑問が子供の頭を駆けめぐるが、そんなことより「聞きたい!はやく聞かせて!」とウキウキした声で返し母にうながす。

 「じゃぁ、話すからちゃんと毛布をかけて寝なさい」

 「はーい!」

 手首元まではだけた毛布を持ち上げ苦しくないよう肩下の胸元へとかけ直すと、小さな声で話し始める。


 「あれは遠い昔の話し…」


 ――その声はどこか懐かしく、そして少し寂しげに話す母を私はよく覚えている。

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